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『千代さんは、急だったねぇ』
『ちょっと前まで、あんなに元気そうだったのに』
私のおばあちゃんが亡くなったのは、高校に入学したばかりの頃。
ちょうど、桜の花びらが夢のように舞っている時期だった。
喪服に身を包んで葬式の会場に足を運ぶと、たくさんの参列者がいて。その全員が、鼻をすすりながら、顔をゆがめて涙を流していた。
おばあちゃんは、明るくて、愛嬌があって、多くの人たちから慕われている素敵な人だったから。
『それにしても、千代さんのお孫さんの佳奈ちゃんだっけ? あの子は、なんだか……千代さんとは違ってクールな感じの子ね』
『たしか、両親が共働きだったんじゃなかったっけ?』
『あらぁ、そうなの? 二人がかまってやれなくて、愛情不足のまま育っちゃったのかしらね』
トイレに向かおうとしたら耳に飛びこんできた、遠い親戚の何気ない会話。
無表情のまま、あえて聞こえなかったフリをした。
そう言われても仕方がないと、自分でも思ってしまったからだ。
あの場で泣いていないのは、私だけだった。
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