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胸に生まれた不思議なゆらぎを誤魔化すように、咳払いをする。
「ふーん。先輩って、暇なんですね」
「うわ。地味にひどくない?」
「ここのところ、ほとんど毎日生物室に来ているじゃないですか」
「だって、居心地が良いんだもの。ねえ、かめきち?」
ケージの前に屈みこむ先輩を、のんびりと見上げるかめきち。
裏口の隙間から入りこんできた風の冷たさに身を震わせたら、先輩は「それにしても、寒くなったよね。もうすぐ十二月だもんなぁ」とぼやきながら扉を閉めなおしにいった。
「そうですね。自然界だったら、この子はもう冬眠している時期です」
「そっか。本来だったら、亀は冬眠するんだっけ?」
「ええ。ですが、飼育下で冬眠させるか否かは、賛否両論があるようです」
おばあちゃんに教わった後、興味を持って、自分でも調べてみたんだ。
「亀は、外界の温度変化につられて自身の体温も変化する変温動物です。寒くなると、活動に必要な体温度を自力で保てない。そのため、代謝をできる限りおさえて、あたたかい春をじっと待つのが冬眠です」
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