第一章 恋とは一生縁がないのだろう

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「まぁ、あれだけ選り取りみどりだったら、仕方ないよねぇ。美人な白鳥先輩、ファッションモデルの女子大生、社会人にいたるまで、王子先輩関連の噂は絶えることがないし。もはや、星燐高校の彼氏がいない女子のうち八割は王子先輩の彼女になりたいって思ってるんじゃない?」 「わー、すごい。興味がないだけで少数派になれちゃうんだ」 「うちのクラスの子たちだって、いつも王子先輩の噂で盛り上がってるじゃん。そんな先輩からしたら、誰か一人に心を決めるなんてもったいないんだよ」 「るりだってモテるけど一途じゃん。あきれるぐらい」  るりは、かわいい。  ふわふわとした栗色の髪に、ぱっちりとした大きな瞳。おしゃべりがとまらないさくらんぼの唇は愛らしい。おしゃれで、きらきらとしていて、今時の女子高生って感じ。 「いやいや、王子先輩と比べないでよ。モテるの次元が違うから」 「でも、るりはあの先輩と同じぐらいモテたとしても、やっぱり先生一筋なんだろうなぁ」  るりは、胸をはりながら、上機嫌そうに笑った。 「まあね。何年かかっても振り向かせてみせるよ」  るりの恋は難しい。  世間体的に大っぴらに言えるものでもないし、反対されることもあるだろう。  だけど私は、一生懸命な彼女を応援したい。  物理の原先生は、教師のくせに適当で、口も悪いけど、根は良い人だと思う。個人的にも彼には恩義を感じている。  最寄駅のホームにたどりついたところで、るりと別れて一人きりになった。  王子先輩かぁ。  まぁ、私はあの人と話すことすらないだろう。  陽の下がお似合いな彼に、陰で息をひそめている私はそもそも目にとどまることがない。  この時の私は、そう信じて疑っていなかった。
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