第四章 ある寒い冬の日のこと

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「信じられないね……。ちょっと前まで、あんなに元気そうだったのに」 「っっ。かめきちぃ……嫌だ。こんなの、信じたくないぃ」  ぐずぐずと鼻をすすったり、瞳に涙をためこんでいたり。みんなが顔をゆがめて、かめきちの死を悼んでいた。  いまこの場で、無表情を晒しているのは、私だけ。  ここにいる誰よりも、かめきちと長く過ごしてきたはずなのに。みんな以上に、この突然の別れを、驚き悲しんでいるはずなのに。  私一人だけが、また、一滴の涙も流せない。  ――私には、やっぱり、心というものがないんだ。  いくら、わかろうと頑張ってみても、無駄だった。  だって、最初から持っていないんだもの。  土を盛り終えたところで、身体の至るところから、どっと冷や汗が噴き出てきた。 「っ」 「羽鳥さんっ!?」  ふらりと倒れそうになった瞬間、王子先輩が駆けつけてくるのが見えて。 「嫌っ!」  半狂乱状態になり、わけもわからず逃げだした。  足がもつれても、肺が苦しくなっても、ただただ走り続ける。  ――大切な相手をうしなってすら、こんな、人形のようにとりすました顔しかできないでいる自分が嫌で嫌で嫌で仕方がなくて。  遠くへ行きたい。  誰の視界にも映らないような、遠い場所に。  このまま、透明人間になって消えてしまいたいよ。
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