第四章 ある寒い冬の日のこと

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「一人に、させてください。今は、誰かと話す気力もないんです」 「うん……。とても、辛いよね。君は、物心ついた時からかめきちと一緒だったんだもの」  彼の言葉が、胸にざわざわと波紋を呼び起こす。  辛い。  そう、辛いはずなんだ。  それなのに、どうして、私の心は震えないんだろう。  荒野のように、ただ虚しいばかり。  私の心が、欠陥品だから? 「……悲しいのかな。それなら、どうして涙の一つも出てこないんですかね」  返事を求めているわけじゃない。  ただ、こぼさずには、いられなかったんだ。  コップから水があふれ出るように。 「昔から、情に薄いというか、淡泊だった自覚はあるんです。周りの子たちがはしゃいだり騒いだりしているのを、理解できないという気持ちでぼんやりと眺めてた。その程度なら、まだ個性のうちだと言えたのかもしれないですけど……私は、春におばあちゃんが亡くなった時でさえ、泣けませんでした。あんなにかわいがってもらっていて、私自身も、大好きだと思っていたのに」
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