第四章 ある寒い冬の日のこと

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 心の奥底に、鍵をかけてしまいこんだ苦々しい記憶。  今まで、誰にも話せなかった。  話したところで、共感してもらえるわけがないと思っていたから。 「……かめきちのことも、本当の家族のように思っていたの。かめきちは、おばあちゃんに大切に、育てられてきたから……私も、それに負けないぐらい、ちゃんと大切にしたいと思っていた」  先輩だって、こんな話を聞かされても困るだけだとわかっているのに。  止められない。 「でも……また、泣けなかった。私なりに、大事にしてきたつもりだったけど……全部、気のせいだったのかな。私の心は、壊れているから」 「羽鳥さん」  彼が、私の肩に手を置く。  私が、自分を傷つける言葉をさえぎるように。 「ごめんね。嫌だったら、僕のことをつきはなして」  次の瞬間、私は彼の腕の中に閉じこめられていた。
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