第一章 恋とは一生縁がないのだろう

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 ✳︎✳︎✳︎  今日は、良い日だ。  なぜかって? 授業がないから、堂々と生物室に直行できるんだ! 「かめきち〜〜〜! 元気にしてたぁ!?」  飼育ケース越しに、つぶらな黒い瞳で私の顔を見つめてくるかめきち。 「ごはんだよー!」  ケースの上から小松菜を分け与えると、もそもそと口にくわえはじめた。ああ、今日も今日とて、私のかめきちはかわいい。いくらでも見ていられる。  屈みこんで、かめきちの食事を見守っていたら、頭上からるりの白けた声が降ってきた。 「佳奈って、亀を前にすると、人が変わったみたいに愛想が良くなるよねぇ」 「亀じゃなくて、かめきちね」 「……へーい」  かめきちは、黒とオレンジ色のコントラストが美しい甲羅を持つヘルマンリクガメだ。元々はうちのおばあちゃんが飼っていた亀なのだけど、理由あって、星燐高校生物室の一員となった。 「羽鳥くんの愛亀は、今日も元気そうで何よりだな」  部室にやってきた彼は、メガネくん。  安直なあだ名の通りに、黒縁眼鏡がトレードマークのひょろ男子。  私たちと同じ一年生で、もう一人の部員だ。
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