第四章 ある寒い冬の日のこと

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「悲しい時は泣くべきだ、という決まりなんてどこにもない。悲しみ方も、喜び方も、人それぞれなんだと思う。顔や性格がみんな違っているのと同じように、感性だって違う形をしていて当たり前。全員が同じように悲しんでいたら、逆に怖いでしょ?」  違う形をしていて、当たり前。 「羽鳥さんには誰よりも真っ直ぐな心が備わっていると、僕は思うよ」  先輩の大きな手が、ふわりと頭の上に載せられる。  小さな子供を、あやすみたいに。 「だって君は、おばあちゃんのことでも、かめきちのことでも、こんなに苦しむほど胸を痛めているじゃない。僕には、君が悲しんでいるようにしか見えない」  とくん、と。  それまで時が止まっているようだった心が、ゆるやかに波打ちはじめる。  その言葉は、不思議なぐらい、すとんと身体の真ん中に落ちてきた。
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