【たった一つの ~side:B~ 】

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* * * * * * * * * 「あ~~~~~~~緊張する!!!」 「私も、だんだん緊張してきた……。だって、2回目だし」 白い扉の前で2人並んで深呼吸する。私は胸に手を当てた。 「いや、だって前の時は式挙げてないから初めてでしょ、アカリちゃん」 「そ、そうだけど!前は届出しただけとはいえ、でも2回目の人妻になるわけだから、神様の前での罪悪感ハンパない……やっぱりご両親にも申し訳ない気がしてきた……」 「今更そんなこと言うのナシ!俺長男じゃないし、そこらへんホントうちの親大丈夫だから!会ったでしょ!?」 「そうだけど……!!」 2人して真っ白な衣装。 今日から私はマツムラ アカリになって誓うわけで……。 マツムラさんもといリュウジ君を見るとすごく緊張しているのがわかる。 私だってグローブの下は手汗がすごいもん。 扉の向こうには、本当にごく少数の身内しかいないと分かっていても、やはり緊張してしまう。 そんな私に、リュウジ君は言った。 「……指輪、間違えないようにちゃんとハメるからね」 私は笑って頷く。 「よろしくお願いします」と。 2人で話し合って、バージンロードは一緒に歩くことに決めた。 そして指輪は……タカフミ君からもらった指輪と、リュウジ君からの指輪の2つをリフォームして、1つにしてもらった。 すごくすごく悩んだけど、タカフミ君のご両親は「いっそのこともう失くしちゃって新しい人生歩みなさい!何なら預かるから!」とまで言ってくれたけど、そういうわけにもいかなくて……。 本当は手放した方がいいのだろうけれど、かといって新しい結婚指輪とは別にとっておくのも何だか悪い気がしてしまう。 きっとタカフミ君がいたなら「手放すべきだ」と私を叱るだろう。 けれどそこまでできない私にリュウジ君は「アカリちゃんにとっても大事なものなんだから無理やり手放さなくたっていい!」と言ってくれた。 そうしてそのうち、男性陣のリュウジ君とお義父さん(私の父とリュウジ君のお父さんまでも)が「じゃあ新しい指輪とタカフミ君の指輪をリフォームして一つにして作り変えちゃえば?」って提案をしてきた。 それってアリなんだろうか……。 むしろリュウジ君はそれでいいの?と私とお義母さんが難色を示してたら、あっという間にリュウジ君が注文して作り変えてしまったのだ。 「だって一つの指輪で二人分のお守りにもなるでしょ。それつけてればさ、アカリちゃんが俺と一緒にいない一人の時でも、きっとタカフミさんが護ってくれそうじゃん?」なんて言って。 面白いのは、やっぱりタカフミ君がいたとしても手を叩いてリュウジ君を気に入ってくれたかもしれないなと、思ってしまったことだった。 タカフミ君のご両親へ改めて報告すると、泣いて……喜んでくれた。 もちろん「タカフミなら、きっと笑いながら許してくれる」と言いながら。 そんなわけで、まぁ色々な人の複雑な思いも詰まってそうな、たった一つの指輪が出来上がった。 最初の指輪をくれたタカフミ君はもうこの世にいない。 だから本当にたった一つの指輪。 そのままとっておくことも手放すことも選べない私に、その思いまでも大事にしてくれるリュウジ君に出会えて、本当に良かったって思う。 ましてや人生2回も結婚できるとは思わなかったし、巡り合いに感謝するしかない。 私、前世でそんなに徳を積んだんだろうか?とさえ思うほど。 ウェディングスタッフがそろそろ…と言って支度を整える。いよいよだ。 『それでは、新郎新婦の入場です』 リュウジ君の腕を組んだら、真っ白な扉が開く。 もちろん真っ白な空間で、奥の窓一面からは庭園の緑が見える。 奥のほうに私とリュウジ君のご両親と、もちろんタカフミ君のご両親がいる。 2人してどうしてもとお願いして参列してもらったのだ。 たくさんの拍手に迎えられて、参列者一人ひとりの顔を見る……余裕なんてのはなかった。 だけど、タカフミ君のお父さんとお母さんが笑顔で、泣いていた。 まるで本当のお父さんとお母さんみたく。 そして、写真の中のタカフミ君はいつもの笑顔だった。 私はそれが目に入り、思わず涙がじんわり浮かびそうになる。 けれどそれは申し訳なさの涙じゃなくて……。 幸せだったよ。 でも、また幸せになるからね。 どうか見守っていてね。 そう、心の中でタカフミ君に話しかけた。 (恋日恋夜「43:夜」「66:たった一つの」より)
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