1人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
桃太郎に出てくる鬼は、悪いことをしていた。だからあたしの意識の中の鬼もしょっちゅう
「俺は、悪い鬼だぜ」
ひひひと舌を出していた。
しかしこの悪い鬼というのは、悪い悪いというわりに、とても世話焼きだったように思う。
不器用だった私に、ずいぶん頭の中から注意した。
「おい、はさみってのは、ちいせい刀が二つあるようなもんだろ。手え切らねえようにしろ」
「お前、今日熱あるじゃねえか。学校休めよ」
「寝る前のはみがき忘れんな」
むかしむかしの鬼ヶ島から来た鬼だというのに、ずいぶんと現実的で、現代的で。あたしは鬼が何か言うたび、笑った。ギャップが面白かった。昔ながらの怖い鬼の姿で親みたいな口のききかた。そう、死んだ父の口調に似ている気がした。
最初のコメントを投稿しよう!