第九話 私の頭の中の魔王

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第九話 私の頭の中の魔王

「うっきゃきぁっ、うっきゃきぁっ」  あっどうも、東京で元OLやっていました(だて) 京香(きょうか)と申す若輩者です。  若輩者っていうか赤ん坊ですね。さっきから「うっきゃきぁっ、うっきゃきぁっ」と、お猿さんの様に喜んでいるのは私です。お恥ずかしい限りです。  実は私、異世界転生したらしいです。  こっちの世界の私の名前はルーララというらしいですよ。可愛らしい名前ですよね。  え? 前回で終わったんじゃないのかって? 何の事かしら、あれはプリンセスジョークよ、私はまだ1歳なのよ、終わる訳ないじゃないの、そんな事より――。 例の盗賊ゾンビヒャッハー襲撃事件から10日ほど経ちました。なのに相変わらず私達は勇者様の領地の【温泉】に入り浸っております。  王様であるパパもママもすっかり気に入っちゃって。 「あぅー、あっきゃきぁう、あっきゃきぁう」(ふ-、極楽、極楽) 「にゃー、ルーララ様ぁご機嫌だにゃぁ、ネネもうれしいのにゃ」 「まあほんと、ルーララったら温泉がお気に入りなのねぇ、これじゃ王都に帰れないわねぇ、ふふ」  あら?メイドのネネさんも王妃である私のママも【温泉】が気に入っているくせに。帰らない理由を私のせいにしないで下さいな。  それにしても猫耳をピクピクしフサフサな尻尾を湯船からだしフリフリしているネネさんの胸を見ながら、意外とボリューミーなのね、気が付かなかったわと自分のぺったんこの胸をさすりながら思ったわ。 ―――その後、寝室でお昼していると 『おーい! おーい』 (……) 『おーい! 聞こえぬか?』 (……) 『おーい! 聞こえぬか? まだわらわ声が聞こえぬか?まだダメかのぉ、起きてくれぬかのぉ』 (……ん?) 『おお!? 聞こえたのか?』 (……だ……れ?)   『ん? わらわか?』  パチッ 「おっ? おぅ? うぁ? あぅあ? あっ? あうわあうあっ」(えっ? 何?誰? どこから? あれ? もしかして【念話】?) 『おお! 起きた様じゃな、【念話】じゃないぞ、そんな必要は無いし。心の声で話して大丈夫じゃぞ、なぜならお主と同じ体の中にいるからじゃ』 (えっ? もしかして私二重人格になっちゃった?) 『違うぞ、体は一緒でも心、いや魂が2つあるのじゃよ』 (一心同体? いやこの場合は二心同体って言うのかしら?) 『そうじゃ、そのお主の体、いや正確にはわらわが転生するはずだった体じゃ』 (あなたの……転生? いったいどういうことですか?) 『むぅ、そうじゃのう、仕方がない詳しく話してやろうかのぉ、最後かもしれんしのぅ』 (西郷?) ――話を要約するとこんな感じだった。  まずこの人はなんと【魔王】らしい、そう1年前に勇者様に倒されたあの魔人族の王【魔王】……。 ~魔王の回想 魔王視点  1年前わらわ達魔人族が住まう大陸【魔人大陸】に突然黒髪の少年の勇者がやってきたのじゃ。  なんとそやつは宣戦布告もせずに街に攻撃を仕掛けてきたのじゃ。  わらわは別に人間族を滅ぼそうとか勇者を倒そうだとかは思ってなかったが、流石に向うが攻撃して来たら当然排除するじゃろ。  しかしそやつは中々強く多分歴代の勇者と比べても規格外の強さじゃった。まぁでもわらわの方がその100倍強いがのぉ。  しかもわらわは【不滅スキル】という魂さえ残っていれば(・・・・・・・・・)肉体も復活するというユニークスキルを持っている。  当然そやつは勝てるはずもなくボロ雑巾の様に大量のゴーレムの破片と一緒にわらわの足元に這いくつばっていた。  それを気まぐれに「最後に言う事は無いか?」と聞いてみたのじゃ。  その問いに少年はこう答えたのじゃ「お前は絶対殺す!!」と。  わらわは少しだけ気になって「どうしてそこまでわらわを憎むのじゃ?」と聞くと 「お前らが僕から全部奪ったんだろ!父さんも、母さんも、妹も、弟も、友達も、村も全部!!」。  わらわは人間の町や村を襲うような命令は出したことは無いが、勝手に配下がやった事だと言っても納得せんじゃろ。  だからそやつを…勇者である少年を見逃した……。わらわとの圧倒的な力の差を見せつけられ、最低でも大人になるまではおとなしく人間の国で静かに暮らし、そのうち忘れるじゃろうと思ったのじゃ。 ―――それがすべての間違いじゃった……。わらわは勇者の回復力と憎悪の深さを読み間違えていたんじゃ。  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ―――3日後の真夜中に悲劇が起こったのじゃ。  タッタッタッタッ、ドンドン、ガチャッ 「ま、魔王様大変だニャー! お空が、お空が怒っているニャァー!」  わらわが寝ていると突然メイドのココが寝室に飛び込んできた。 「なにごとじゃ! 落ち着くのじゃ、お空が怒っているじゃと?」  興奮しているココの喉をサスサスしてやった。 「ニャー気持ちいいニャァー、じゃないニャ! とりあえず窓からお空を見るニャァ」  フカフカのベットから降り真夜中のはずなのになぜか明るい空を、窓を開け見上げると…大量の燃え盛る隕石がこの街、いやこの国に向かって落ちてこようとしていたのじゃ。 「なっ?【隕石群落とし】(メテオレイン)じゃと……」 「ニャッ? 魔王様、【メテオレイン】って何ニャ?」 「あまりにも危険すぎる為【禁呪】となっておる【神話級】の魔法じゃ、わらわ以外にまだ使える者がおったとはのぅ」  それよりなぜこうなったのじゃ、なぜこんな状況になるまでわらわは気づけんかったのじゃ? まさか女神が……。  いや今はそれより【メテオレイン】をどうするかじゃ。大陸全部は今からじゃ無理じゃが……せめてこの街だけでも……。  わらわはあまり【結界魔法】は得意な方ではないのじゃが、この【漆黒結界の指輪】を使えば!  わらわは指輪にありったけの魔力を込めた。 「【漆黒結界】発動」 【漆黒結界の指輪】:指輪を装備している者の周囲に漆黒の結界を作りあらゆる魔法攻撃、物理攻撃から身を守る。込める魔力の量によって強度、範囲も上がる。  すると指輪からまっ黒な霧が溢れだし街を包み込み闇の結界を形成していった。 「なんとか間に合ったかのぅ?」  結界が張り終わり霧が晴れてきた、その直後――。
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