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ようやく蟠りが解けた
・・・・・
今日は新型コロナワクチン二回目の接種日だ、朝田部長が騒動を起こしたあれから30日が過ぎた。
「部長、今日は医務室での我儘は言わないでくださいね」
「大丈夫だよ、君の知り合いの蒲池君とは友達になったんだよ、あの週末に食事をしてね・・そうだ、君のことも推薦しておいたよ、見た目は気が強いが健気なところも有るってね」
「彼、何て言ってました?」
「蒲池君って、バツイチだってね・・もう結婚はこりごりだって言ってたよ。いい男なのにね。」
「そうみたいですよね⁉」
(何がこりごりよ、それはこっちのセリフじゃない!フザケヤガッテ!)
暫くすると朝田は接種を終えて部屋にもどって来た。
「部長、今日は私、必要じゃなかったみたいですね?」
「うん、でも彼に逢うのを楽しみにしていたんだが・・残念だ」
「また、男性の看護師さんでしたの?」
「いや、蒲池君じゃなく女性看護師さんだったよ」
「女性が良かったんでしょ、なのに・・どうして残念なんですか?」
「その女性看護師さんに『今日は蒲池君は何故来ないの?』って尋ねたんだ、そしたら何て言ったと思う?」
朝田は蒲池と知人の三浦なら既に知ってる筈だと、想定済の質問だった。
「なんて言われたんですか、その看護師さん?」
「君、知らんのかね?・・本当に?」
「いいえ、何も・・」
「蒲池君、一年ほど前から具合が悪かったんだって、それが日を追うごとに悪くなり、最近では連絡が取れなくなって・・つまり行方不明だって訊かされてな」
三浦のキーボードを打つ指は止まる。心臓の鼓動と共に身体が揺れ出した。
「部長、具合が悪いて仰いましたよね⁉ どこが、どこが悪いって言ってました?」
「君、本当に知らんのかね・・若年性アルツハイマーって君、知ってる?若いのに気の毒だね」
三浦の腕はデスクから解ける。そして次の瞬間三浦の身体は椅子から崩れるように床に伏してしまった。
「三浦君! どうした! 君!しっかりしろ! おい、どうしたんだ⁉」
(淳の奴め、ID番号をど忘れしたなんて、本当は私に窮状を求めて来てたのだ、なのに私は気づけなかった、離婚の訳はこれだったんだ!・・私がずう~と蟠りを感じていたその謎がようやく今解けたのに・・皮肉にも私の目の前はいま真っ暗なの・・淳、何処に居るの?・・)
「オイ、医務室か!朝田だ、三浦が意識を失った! 直ぐに医師を寄こすんだ‼ 救急車も呼ぶんだ‼」
―完―
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