君、覚えてるかね

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君、覚えてるかね

「なんだ・・今日だったんだ、俺も今日の予定なんで朝田の(やつ)どうだったか様子を見に来たって訳だ。早まってしまった、何だか損した気分だね」 「だったら専務、朝田の帰るのをこのままお待ちになってはいかがですか?」 「じゃそうするか、そう言ゃ三浦君、ありゃ去年だったよね、インフルエンザワクチン接種の時の朝田君、君覚えてるかね?」  昨年は政府の声かけでインフルエンザのワクチン接種が推奨された。なんでもコロナ感染の症状がインフルエンザと酷似しているからと言って誤診を避けるために、インフルエンザの予防接種を国が無償提供したことが有った。 「あっそうです、あの時(わたし)、医務室から呼び出されたんですよ、 そうだ、あの日は接種専門の看護師さんが大学病院から派遣されて、それを朝田部長が嫌だって気儘(きまま)を言ったんですよね『どうして俺の時だけ看護師が男性なんだ』って」 「そう、だから君が医務室から呼び出しを食らってさ・・三浦君、君よく覚えていたね⁉」  会社には内緒にしていたが、その男子看護師こそ三浦風美の元、夫だった蒲池淳(かまちじゅん)である。 二人は既に昨年秋に離婚しているが、結婚した際も風美は蒲池を名乗ることなく旧制の三浦のままで仕事を続けていた。  三浦が秘書をしているこの広告会社は、社内に医務室が設けられ、平時は医師一人と女性の看護師一人が常勤している。 だが、健康診断や集団予防接種なんかの場合、担当医師が所属している大学附属病院からの応援が派遣されることになっていた。 昨年のインフルエンザの予防接種の際は偶然、元、夫の蒲池淳が派遣されたと言う訳だ。 そんな話しの矢先である。三浦のデスクに有る内線電話機の呼び出し音が鳴動した。
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