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携帯は有ったの?
「淳、待った?」
「あっ風美早かったね・・ごめんね」
蒲池の左手には手帳が握られていた。
「用意が良いわね・・そりゃそうと部屋の解除カードは持ってるよね⁉」
「勿論・・ほら、この通り」
「ハイ、これがID番号で、その横のが部屋番号、このメモあげるから、あとで手帳に写したら」
(久しぶりだ、このエントランスの香り・・でも知ってる人に逢うのちょっと嫌だ)
蒲池は貰ったメモを見ながらエントランスのオートロックの解除に成功すると、振り返り風美と笑みを交わした。やがてエレベーターに乗り、どや顔で行先ボタンを押す蒲池だった。
「うん~6階だったのか?」
部屋の前に立った蒲池はドアノブにカードを挿入した。ドアロックが解除される音がした。
『ん~ガチャ』
解除の音を聴くだけで互いが顔を見合わせ微笑する二人だった。
「やった!」
「良かったね」
(さぁ私が来た限り、淳の話しの事実を確かめてやるわ!)
「悪いけど部屋にも入れてもらってもイイ?」
「どうぞ、久しぶりだろ・・ビールでも飲んでいったら?」
玄関には男物の靴だけだった。そりゃそうだろ鍵掛かってるんだもん? いや淳が入れなかっただけで彼女は今、出かけていないのかも?)
「マンションにはいつから帰っていないの?」
「三日前から」
「誰んちで寝てんの?」
「ビジネスホテルだよ・・どうかした? あっ有った! 携帯が有った!」
(淳の携帯はベッドの枕もとに置かれていた。淳の話しは本当だったんだ。)
どうやら三浦は自分が早合点していたことに気づいたようだ。だが今日の自分はどうかしていることにも感づいていた。
高橋専務の曜日の錯誤は年齢を考慮すれば十分腑に落ちる。報告書を作成する際に三浦なりに想定したのはアルツハイマーだ。でもその文字はあえて報告書には記述しなかった。身近な存在である上司を失いたくなかったからだろう。
そんな、情緒不安定を悟った三浦は一刻も早く自宅に帰りたかった。
「淳、もういいでしょ、良かったら私帰る」
「ビール飲まないの?」
三浦が玄関に向かって寝室から出ようとした瞬間、背後から蒲池の両手が肩を包んだ。
「今晩は泊ってって欲しいな・・だめ?」
「・・・・だめ、もう私たち他人同士でしょ⁉ それじゃまたね、あっそうだ淳、二回目のワクチン接種は来ないでね!」
「あぁ分かった」
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