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棺桶に片足
ここは或る広告会社の営業部長室である。
「部長、間もなく11時ですよ。そろそろご準備お願いいたします」
「あぁ分かってるよ、でも妙だね、どうして高齢者順なんだろ? 棺桶に片足突っ込んだようなこんな爺さんをモルモットにするなんて、会社は間違っとるよ・・ねえ三浦君、君もそうは思わんかね⁉」
この会社では今、人類を脅かせている新型コロナウイルスのワクチンを職域接種している。
社内規定での接種順位はどうやら行政に準じてか高齢者を優先しているようである。
「大丈夫ですよ! 朝田部長はまだまだお若いじゃないですか⁉」
「日ごろ年寄り扱いして置いて、こんな時だけ『お若い』だなんて君もよく言うよ」
三浦風美は秘書課に14年間勤務のベテラン、3年前からは朝田部長の秘書を実務している。昨年バツイチになった36歳女子である。
「行ってらっしゃいませ。」
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