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「あ、雨……」
私はため息をついて視線をかがめた。残業させられたうえに、濡れて帰るだなんて。
すると片岡くんがスーツのジャケットを脱いで、手で傘を作ろうとした。
「先輩、濡れちゃ困るんでこの中に入ってください」
彼は私とできるだけ距離をとれるよう、ジャケットを私の側に向けてくれている。おかげで片岡くんの右肩はびしょ濡れだ。
「いいよ。もうすぐ家に着くし。片岡くんのほうがまだ家に帰れないんだから自分にかぶりなよ」
私はそう言ったが、彼はずっとジャケットを傘替わりにしたままだった。
「入ってください。お願いします」
なんて不器用な子なんだろう。
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