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その後も道を歩くうちに六、七人の見ず知らずの人から話しかけられた。その度に必ず「明日の事」を確認される。なぜか皆、私が「明日の事」を知っているという前提で話しながら、実際に明日何があるかについての具体的な情報は何も教えてくれない。
私自身、何の変哲もない外見だから他人に間違えられる可能性は全く無いわけではないが、それでも、今日一日でこれだけ頻繁に人違いされるのは異常だ。
それに、彼らが言ってる「明日の事」とは何なのか、私に直接的な関係は無いにしても流石に気になってしょうがない。
何か手がかりは無いものかと、今度は、むしろまた誰かが話しかけてくれるのを期待して、相変わらずふらふらと歩いていたところ、行く手に見覚えがある人の姿を発見した。
「私」だ。いや、それは「私そっくりな人」だった。顔も、髪型も、背格好も、私をそのままコピーしたかのように瓜二つだった。
私はピンときた。きっと街の人々は、あの人と私を取り違えているのだ。あの人と交わした明日の約束か何かを私に確認していたのだ。
だからきっとあの人に訊けば「明日の事」も分かるに違いない。
「ちょっと! そこの人!」
私のそっくりさんは私の方を振り向き、そして、ぎょっとした様子だった。それはそうだ。あちらにしてみても自分と同じ容姿の人間が突然現れたのだからびっくりするに決まっている。
「突然ですみませんけど、明日は何があるんですか?」
私は単刀直入に訊いた。
「またですか!」
私のそっくりさんは怒ったように声を上げた。声も私そっくりだった。
「何だって言うんだ! 皆して、明日、明日、明日……! 明日の事なんて私が知るわけないじゃないか!」
そっくりさんは今までに溜めに溜めた苛つきを一気に爆発させたかのように興奮気味に声を荒げる。
「じゃあ……貴方もなんですか?」
私は混乱しかけた自分の頭をできるだけ平静に保ちながら訊いた。
「えっ?」
「私は、今日、十人近い人から話しかけられ、明日の事を覚えているか、いや覚えているに決まっている……というような事を繰り返し言われたのです。しかも全然知らない人達に! 私はてっきり、私にそっくりな人……つまり貴方に間違えられて話しかけられたのかと思ったのです」
「それは本当ですか?! いや、本当に違いない。私も全く同じ状況ですよ。私も、皆から次々に明日の事を確認され、しかも、私自身は明日一体何があるのか皆目分からないままです」
「そうですか……不思議ですねぇ。それじゃあ、私達は、私達にそっくりな誰か別の人に間違えられたというわけですか?」
「妙な話ですが……そう考えるより他はなさそうですねぇ」
「じゃあ、とりあえずここは二人で協力して、私達にそっくりな誰かを探しますか……気になりますしねぇ、明日の事」
私達は互いに同じ顔を見つめ合い、頷きあった。
すると、ちょうどその時……
「あの~すみません。貴方達ももしや明日の事をご存じではないんで?」
声を掛けられて振り返ると、私のそっくりさん……いや、私達のそっくりさんがもう一人、不安げな表情で佇んでいたのだった。
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