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三人の私達は一緒に街を歩いて別の「私」を探す事にした。
しかし、もはや探すまでも無く、私達のそっくりさんは街の至るところにいた。
四人目、五人目、六人目……と、そっくりさんは瞬く間に増えていく。もう既に私達と同様にグループ行動をしている別のそっくりさん集団も何組かいた。それらの私達が次々に寄り集まり、合流し、集団は、二十人、三十人、四十人とみるみる膨れ上がる。
容姿以外に私達に共通している事は、街で出会う初対面の人達から「明日の事」を頻繁に確認されているという事、しかし、「明日の事」を何も知らないという事、そして、「明日の事」を知っている自分のそっくりさんを探しているという事だった。
そう……これだけ沢山の「私」がいるのに「明日の事」を知っている「私」は、この中に一人もいないのである!
「明日の事」を知っている「私」を求めて、私達の集団は、ぞろぞろぞろぞろと修学旅行の学生よろしく街を練り歩く。
そして、さらに不思議な事には、街の人達は、同じ姿形をした大量の人間の集団が歩いていても何ら驚いた様子も見せない。ただ、老若男女が私達に近づいてきては、「明日の事、覚えてます?」「覚えてますよね!」「大事な事だから!」「忘れるはずがない!」「それじゃあまた明日!」と口々に話しかけては離れていくのである。
もう相手にするのも面倒になって、私達は彼らをほとんど無視していた。けれども、彼らはそれでも全くお構いなしの様子だった。
「もう! 明日の事なんて知らないのに!」
「なんで皆、話しかけてくるんだ!?」
「なんで私の話を聞かずに去って行ってしまう!?」
幾人かの「私」が苛立ちの声を上げる。イライラしているのは私だって同じだ。そして、きっと他の「私」も私と全く同じ気持ちに違いない。
「一体、何処に[明日の事]を知っている[私]がいるんだ!?」
私は叫んだ。他の「私」達も同じ台詞を同じタイミングで叫んだ。そのため、悲鳴にも似たその言葉は街中に大きく反響した。
もはや「私」の集団は数百人……いや、事によると数千人もの人数に達していた。数えることはもう不可能だ。前も後ろも右も左も、とにかく「私」だらけでギュウギュウの超過密状態である。一体、今までこの街のどこにこんなに沢山の「私」がいたというのだろう?
いつの間にか日は落ちて時刻はすっかり夜になり、問題の明日が刻一刻と近づいてきている。
暗くなってくるとまるで波が引くように私達以外の街の人の姿が消えた。
街灯が夜の静寂を照らす中で、無言で行進する私達の足音だけがザッザッザッ……と響いている。もう誰も何も話さない。私達は見た目だけでなく思考回路も非常に似ているらしく、話しをしようにも同時に同じ台詞を言ってしまったりしてかえって会話が成り立たないのだ。
しかし、ちょうど23時を回った頃、前の方を歩いている「私」のグループから一斉に次々と声が上がった。それは、先頭にいる「私」からのメッセージだった。伝言ゲームのように前方から後方へとさざ波のように伝わってくる。
「あれだ! あれを見ろ! あの[私]なら[明日の事]を知っているんじゃないか!」
声はそう伝えていた。メッセージを受け取った私達に動揺と緊張が広がる。
しかし、今の私の位置からだと「あれ」が何なのか見ることができない。とにかく私は、何が何だか分からないままに同じ言葉を叫び、伝言を後方に送った。そして、他の「私」が進む方角に向かってただ流されるままに歩く。そうして見えてきた。潮干山の中腹に佇む巨大な大仏……ライトアップされたその顔は、驚くべき事に、紛れもなく私の顔だった。
けれど、幾ら私の顔をしていると言っても所詮は鉄筋コンクリート製の建造物である。「明日の事」など知っているはずはない……そうは思うものの、私の心のどこかには、あの大仏像こそが私達がずっと探していた「私」なのだという奇妙な確信があった。
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