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何より、この病は人間を変貌させる為に生まれて来たのではないかと………いや、この地球そのものが生命と言うものに対して向けた行為なのかもしれない。そう願いたい。
なぜ、このような事を考えるのか。
それはこれが、金属から金属に、鉱物から鉱物に、日々尋常じゃない程の速度で成長し、進化し、飲み込んで行った。
まるで世界の終わりかと言わんばかりに、日々、この病は世界を、霊長を蝕んでいた。
「気持ち悪い世界だ」
悪態をつくように、僕はそう呟くと、宝石まみれの世界を歩く。
目的地があれど、目的地が無いかのように。
カツン、カツン、と軽い足音を鳴らしながらコンクリート踏みつけ、街中に響き渡らせ、自身が証明するように一歩ずつ踏み込んでいく。俺だけがこの街に残ったかのような感じを胸の中でふと覚えながら。
寂しさとか、悲しさとか、優越感とかそのようなものは何一つ無かった。ただ、今日も心を殺して、思考を停止させ虚無感に包まれながらも毎日、同じように歩を進めているだけだった。何も思わず、感じず、平凡に生きているだけ。
「あ、あの………」
はずだった。
いつもと同じように街の中を歩いていると、声がかかる。
僕は反射的に振り向くと、そこには女性の顔があった。
「………」
「あ、あのぅ?」
「………何ですか?」
僕自身、話しかけられたパニックで不愛想で他者から見ると、不機嫌そうな人の様に話しかけてしまう。
だがそれもしょうがない。今僕の目の前にいるのは、かつて僕の嫌いで憎い相手の顔が映っており、僕の胸の奥では大きな鼓動と共に、不愉快な物を感じさせた。
別に人が嫌いと言うわけでは無いが、誰だって嫌いな相手の顔を見ると不愛想になるに決まっているはず。
「え、えっと、落とし物です」
「はぁ」
一体、何を落としたのだろうか?
そのような疑問が脳裏に浮かぶが、僕は彼女から渡されるものを見て、その解答がすぐにでも理解する。
「は、はい。これです」
「………」
彼女の手に持っているのは一つのハンカチ。
そう言えば、あの女と出会ったのも子のハンカチと同じ柄だった気がする。
偶然が、必然か。理解できない恐怖感が、ひしひし、と感じる。
「違いましたか?」
「………いいえ、僕のです」
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