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「頭が痛い? それは?」
「いいから、早くしてください」
でないと殴りたくなる。
「わ、分かりました」
カミングアウトを必死に我慢すると、彼女は僕の袖を捲り、包帯が巻いてある僕の腕を見る。
もうここまで来た以上、余計なことはしたくない。余計なことをすると、この女の顔を余計に見る羽目になる。
「え、えっと、なんでそんなに不機嫌なんですか?」
「知りたいですか?」
「………もしかして、私何かしちゃいましたか?」
あぁ、した。今現在進行形で、行われている。
「良いですから早く終わらせてください」
「は、はい………」
これ以上の会話は無駄余計な時間を潰すだけ。
結局の所、僕の事を引き留めた彼女の名は僕にとって知らず、近くにあったボロボロのベンチで診察が行われる。
包帯を巻かれた腕を静かに触れながらも、じっと僕の症状を見てくる。
「!!」
すると彼女は無粋にも、包帯を解こうとした。
それを反射的に僕は弾いてしまい、その場には何とも言えない冷たい空気が辺りに広がる。
「な、なんで」
「もういいでしょ」
話を遮るように声を上げる。
「け、けど!」
「もうこれで終わりです。これ以上は関わらないでください」
「ですが、症状は」
『人の秘密にずかずかと覗き込んでくるな。無粋だぞ』
「!!」
僕は彼女から腕を返してもらうと、袖を下ろし、下ろしていた荷物を背負う。
「あ、あの!」
そのままベンチから立ち上がり、去ろうとすると彼女は驚いた表情を向けている。
「何ですか?」
さすがにこれ以上は付き合い切れない。
そんな事を思いながらも、僕は彼女のことを睨みつけるかのように、彼女の事をも見つめる。
「お名前をお聞きしても?」
一体、何のかと思っていたのだが、何というか、呆気ない質問だった。
深い溜息が出る。馬鹿らしく気を引き締めていた僕は一気に気が緩み始める。
「まず、そのような質問は貴方からしてみれば宜しいのではないですか?」
「あ、では!」
「けどいいです」
「え⁉」
彼女が自身の名前を言おうとした瞬間、僕はそれを遮る。
彼女に憎たらしいほどのキラキラとしたまっすぐな瞳がそのやる気さえも奪っていく。
「もうこれ以上関わるはずないのですから」
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