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「日本にいる時に病院に行ったし、問題は無いわ。安心して。」
紗知は背伸びをして、晃の頭を撫でる。まるで、猛獣と調教師みたいだなと思ったが、口にはしなかった。
「…ちゃんと辛かったら言えよ。」
無理矢理微笑みを浮かべ、紗知のアップヘアが崩れないように、優しく撫でる。
「勿論よ。そんな不安な顔をしないで。いつも通り堂々としていて頂戴。結婚してすぐで悪いんだけど、仕事は暫く休もうと思って…。」
「あぁ、そうしろ!!ずっと休んでていい!!俺が働くから!!」
「いや、ずっとはちょっと…。」
「本当に面倒臭ぇな、晃…。」
若干引き気味になっている花嫁。側にいる松林も、少々引いていた。
他人に興味も示さず、心を閉ざし、他者を傷つけてばかりだった男が、はじめて愛した女。少々愛情表現が空回りしても、仕方が無いとは思っていたが、目の当たりにするとげんなりする。
過保護と言うか、束縛が激しいと言うべきか。
それを心から嫌がってない紗知を見る限り、これが2人には丁度良いのだろう。彼女も愛に飢えていたのだから。
太陽が昇り切ったのか、ステンドグラスから射し込む光が強くなった。
信仰心どころか反逆心満載の2人にも、慈悲深い神が祝福してくれているのかもしれない。
無宗教を決め込む松林だが、この時ばかりは神に願いたかった。
美青年と美女の、大聖堂で愛を誓う姿。どんな名画や宝石よりも美しく輝かしい。
歪んでいるが、お互いを想いやる2人。
似た境遇に置かれた2人。
人より苦労し、人より争いの中にいたのだ。この後の人生は、人より少し幸せで平穏でありますように。
「ちゃんと、幸せになれよお前ら。」
松林は、ほんの少しだけ、この結婚式に連れて来られて良かったと思ってしまった。
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