カテドラルで微笑む2人

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「急に呼んじゃってごめんなさい、先輩。でも他に頼める人が私にはいなくて…。」 「あー…紗知ちゃんは何も悪くねぇよ。折角の結婚式だ。怒鳴り声出して悪かった。」 直ぐ様、態度を改めた。彼は昔から、新婦の泣き顔に弱いと言う特徴があった。 「俺と態度違くないっすか?」 「当たり前だろが。可愛い方の味方だ俺は。」 「はぁ?俺も可愛いだろ。」 「頭狂っとんのか、このイケメンゴリラが。兎に角、始めるぞ。誓いの言葉…とか、俺知らねぇんだけど。」 事前に知らされていれば、結婚式の事ぐらい調べて来ただろう。彼は意外と、真面目なところがある。しかし、先程言った通り要件の説明もなく、突然後ろから拘束され、フランスへと飛ばされたのだ。下準備する暇もない。前日の夕方には、高級ホテルに押し込まれ、ぽかんとしていた。 「あぁ、それいらねぇよ。誓いますかー?って聞く奴だろ。んなもん、邪魔だ邪魔。」 「…俺のいる意味あっか?」 何の為の神父役だよ、と言うと「雰囲気作りだ。」と1言。 雰囲気作りの為に、自分は拉致されたのか。びきびきと青筋を浮かべるが、怒鳴る事はしなかった。これ以上の怒声は場所的にも、結婚式と言うイベントから見ても無粋である。これが終われば、高い酒の1杯でも奢らせよう。 そう自分を落ち着かせる松林を尻目に、新郎はタキシードから小さな青い箱を取り出す。片手で器用に開いたそれには、金色のシンプルなリングが収まっている。 「俺らの愛を神になんか誓わねぇ。悪魔にだって魂を売りもしねぇ。だろ?」 指輪を手を伸ばしたのは、新婦の紗知の方だった。小箱からさっと抜き取り、新郎の手を引いて無理矢理嵌めたのだ。そのあっさりとやりきった行為に、新郎は少し目を見開く。 「そうね。ふふ、何を成し遂げるにしても、自分達の力だけで、十分だもの。誰にだろうとみっともなく、縋ったりしないわ。私はこの先、あんた以外に背中を預けはしない。アキ、あんたは?」 胸を張る彼女に、アキと呼ばれた新郎は、喉の奥で笑った。悪人のようなニヒルな笑みを浮かべる様は、強面の松林の怒り顔よりも恐ろしい。 「その通りだ。俺もお前以外に、弱みを見せはしない。俺らを邪魔する奴は、神だろうと殺してやる。」 そう言って、彼女の細い指に、指輪を嵌めた。飾り気は無いが、それなりに値段の張る指輪なのだが、紗知は興味が無いのか、一瞥しただけだった。 「悪魔もね。寧ろ、どっちも利用するぐらいじゃないと。」 「いいじゃねぇか。俺らは俺らに、誓うまでだ。俺が愛するのは、お前だけだ。」 「そうね。じゃないと、殺してやるから。」 「あぁ、俺だってそうするからな。」 2人は松林そっちのけで盛り上がり、どちらからともなくキスをした。 「ったく、何つう事言ってんだ。…まぁ、お前等らしいっちゃ、らしいな。」 悪態をつきつつも、松林は嬉しそうに2人を眺めていた。
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