カテドラルで微笑む2人

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新郎の晃は、弟だった。 自分の父親と血の繋がった、戸籍上他人の弟。知ったのは、松林が成人になって間もない頃だった。親が定期的にどこかへ金を振り込んでいた事を知り、問い質した結果だ。 フランス人の女と浮気し、認知せずに放置していたら、その女が亡くなったらしい。病死か事故死かは忘れたが、以前から体を壊しており、永くはなかったそうだ。 天涯孤独となった子どもへの、少しばかりの同情か罪悪感か、家を与えてそれなりの額の生活費を送り続けていた。 しかし、それで子どもが真っ当に育つ筈は無い。 実際、晃は警察に目をつけられる不良となっていた。喧嘩をし、大人相手にも殴り掛かる。俺はそんな晃が気になって、他人のふりをして近づいた。 生意気で乱暴者だが、意外と可愛げのある奴だと、松林は晃といるうちに色んな面を見てわかっていた。頭も良く、物覚えも良い。 不良等せずとも、まともに授業を受けていれば、一流の大学を目指せるのにと、何度も思った。 「喧嘩は百歩譲って仕方ないとしても、勉強はしておけよ」と言えば、「煩ぇ、ドブス」と言いながらも裏では真面目に勉強していて、テストは満点を取ってくる。その度にドヤ顔をするが、松林はそれも可愛いところだと思っていた。 しかし、晃の不良行為が治まる事は無かった。特に多いのは、オヤジ狩りと女性への性的暴行。寧ろ、歳を重ねる事に過激になる。裏で揉み消してやった事も、1度や2度では無い。 これは、自分を捨てた父親と、被害者を重ねているのか。 母親からの愛を、もう一度受けたいという気持ちからなのか。 松林には、理解出来なかった。 次第に仕事で忙しくなり、晃に構う事も出来なくなっていた。 そして、紗知と晃は出会った。 小枝のようにやせ細った姿に、松林はぞっとしたのを覚えている。 中学生になる今まで、禄にご飯も食べさせて貰えなかったとは、信じられなかった。こうなるまで、親は何をしていたのか。 きっと、禄な親ではないだろうと思ったところで、自身の父親の事が思い浮かぶ。 アレも、ただのクソ野郎だったのだ。 この子の親と同類だ。 晃は子育てが、上手かったと言える。紗知の勉強を見てやり、食事も衣服も用意していた。護身術と称して、格闘技を本格的に教え込んだ事には度肝を抜いたが、無理矢理やらせたのでは無く、本人の意志だったので良しとした。 最初は、自分より可哀想な存在を、弄んで暇を潰そうとしていたのだろう。何かあれば、紗知を逃してやらねばと、気を奮い立たせていたのだが、月日が経つにつれ、晃に変化が見られた。 紗知を見る晃の目は、玩具でも使い勝手のいい女を見る目では無い。 ただ愛しい者を見る目つきに、変わっていた。
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