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その後、紆余曲折あり、別れと出会いを繰り返し、やっと結ばれたようだ。
見守っていた身としては、嬉しいやらほっとするやらである。
大きくなったな、と親目線な事を考えていると、「あ!」と紗知が声を上げた。
「やっぱり、さっきの誓いは無しよ。私、貴方だけを愛する事は出来ないわ。」
その言葉に、場の空気が冷えたのを感じた。急に太陽が引っ込んで、夜が戻ってきたのだろうかと錯覚する。
「あ?お前、ここまで来て何を言ってやがる。」
新郎の晃はというと、冷気というより、口から炎でも吐かんばかりの熱気を纏っている。不味い、と松林は固まってしまった。
情けない事に、晃と殴り合っても勝てる自信が無かった。
(頼む!!大聖堂で暴れ出したりすんなよ!!後が怖いんだからよ!!)
そんな2人の反応に、紗知はこてんと首を傾げている。
「何か勘違いしてない?私怒られるような事はしてないわ。」
「じゃあ、何で俺だけを愛せないなんて言いやがる。今ここで息の根を止めてやろうか。」
晃の手が、紗知の首にかかる寸前。
紗知がばちんと、自分より大きな手を払い除けた。松林は寿命が縮む思いで、事の成り行きを見ている。
「それは困るわ。父親に殺されるなんて、この子が可哀想よ。」
「あ?この子…って……。」
自らの腹を撫でる新婦に、晃は全てを理解した。その様子に、くすくすと笑いながら、紗知は今まで話していなかった事を告げた。
「貴方は、パパになるのよ。私もだけど、この子の事も愛して欲しいわ。」
次の瞬間、晃と松林が同時に崩れ落ちた。
「え、ど、どうしたのよ。子ども嫌だった?」
すぐに起き上がった晃が、さっと紗知を抱き締めた。力加減をしている為、紗知を潰す事は無く、紗知の力でも跳ね除けられる程度の力しか出していない。
「嫌な訳ねぇだろ!!愛してやるに決まってる!!くそ!!お前、妊婦ならもっと体を労れよ!!飛行機乗せちまったじゃねぇか!!酒だって、昨日勧めちまったし…た、体調どうだ?辛くないか?今から病院行くぞ!!」
「大丈夫よ!酒だって結局飲まなかったじゃない。それに、今からハネムーンでしょ。何で病院行くのよ、嫌だわ。」
「おいおい!落ち着け!もう動くな!!腹を刺激すんじゃねぇよ。」
「まだそこまでじゃないわよ!あんたが落ち着きなさい!!今からこんなに騒いでどうするのよ。」
「晃、一旦落ち着け。紗知ちゃんと、話をするんだ。」
復活が遅くなった松林が、2人の間に割って入る。未婚の松林からすれば、妊婦に関する知識等皆無だ。しかし、勇猛果敢だが無謀な事やリスクの大きい事はしたがらない紗知が、何も考えずに結婚式を迎えたとは思わない。
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