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まだ朝日が昇って、間もない時間。
白い光がステンドグラス越しに降り注ぐ。
厳かに佇むパイプオルガンも、演奏者がいなければ人々と同じように、眠ったように静かである。
静寂と朝日に包まれた、田舎町にぽつんと建つ大聖堂の中。
そこには、白い服に身を包んだ1組の男女と、神父らしき男が1人。
3人は特徴的と言えた。
白いタキシードを着た男は、西洋の血を引いた端正な顔立ちと緑色の瞳を持つ美青年。その青年が手を握るのは、パールホワイトのウエディングドレスを着た、華奢な日本人女性だ。
どう見ても、新郎と新婦だろう。
大聖堂には、3人以外の人の姿が無いのは、結婚式を挙げる為に貸し切りにしたからだ。
しかし、2人を祝う人々の姿が見えない。
友人どころか、新郎新婦の親族さえもいない。
若い2人の結婚式にしては、厳かとも物寂し過ぎるとも言えた。家族がいないも同然の新郎と、家族と疎遠状態にあった新婦には、仕方ない選択だ。
そうでなくとも、この2人ならば少人数かほぼ2人きりの結婚式を選んだだろう。
新婦がうっとりするように、大聖堂の中を見渡してこう言った。
「静かでいいわね。私、朝の静寂の時間が大好きなの。」
読書家で、静かな場所を好む彼女らしい発言に、新郎は穏やかに微笑む。
「お前らしいじゃねぇか。確かにガヤガヤ煩ぇより、ずっといい。」
丁度彼女にプロポーズした時も、まだ星が輝きを失わず、太陽が昇り出したこの時間帯だった。だから早朝に結婚式を予定したのだ。
「いやー、随分綺麗だな紗知ちゃん。元から可愛かったが、偉く美人さんになったモンだ。」
「あ?人の嫁盗るつもりか殺すぞ。」
「お前、こんな神聖な場所で殺すとか言うな。あと、そんな気全く無ぇから。」
「ああ"?俺の紗知は喉から手が出る程、欲しいぐれぇのいい女だろうが。殺すぞ。」
「もうやだこいつ、面倒臭ぇ!つうか、俺今日久々の休みだったってのに、急に拉致るし、飛行機乗せられて知らんとこ連れて来られるし。服もひん剥かれるしよ。もうちょい、考えてくれないか?」
神父が欠伸を噛み殺しながら、2人に苦情を入れた。ギョロリとした目に、骨張った顔。ひょろりとした長身は、新郎の頭1つ分あった。神父らしい立襟の黒服を着せられ、窮屈そうに首元を触っている。
彼は勿論、本物の神父では無い。
2人の共通の知人で、腐れ縁と呼べる人物だ。因みに2人の婚姻届の保証人の1人である。
「んだよ、可愛い後輩の結婚式に呼ばれてんだから、光栄に思えよ松林先輩。」
「それが先輩に対する物言いかよ。どこが可愛いだ、ふざけんな!」
相変わらず態度のなっていない、年下の新郎に吠えた。声が大聖堂中に響き渡る。それにさっと動いたのは、新婦の方だ。神父の前に立ち、瞳を潤ませながら申し訳無さそうな顔を作る。
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