ナイトルーティン[読みきり]

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「おい、いつまで寝ているんだ」  揺り起こされて目が覚めた。ガバっと起き上がる、窓から朝日が射していた。 「朝なの、ねえ今日は何日なの」  不機嫌そうな夫にすがりつくように訊くと翌日の日にちを口にした。 「やった、抜け出せたんだーーー」  喜ぶ私を見て怪訝そうにしている夫に、タイムリープの話をした。 「お前がタイムリープしてたって、そんなバカな」  一度はそう言ったが、少し考えてから、いや悪かった大変だったねよく頑張ったねと言ってくれた。 「さ、それよりも今は日常だ。会社に遅刻するわけにもいかないからね」  そう言われて気を取り直し、着替えもそこそこに朝食の用意をするためにキッチンへと向かった。  私が朝食をつくっている間に、シャワーを浴びて身だしなみを整え、スーツに着替える夫。そして一緒に朝食を食べてから、玄関まで見送る。いつもの朝の姿だ。  玄関で行ってきますを言う前に、夫がポケットからナイトクリームの瓶を取り出した。 「これ、処分してくるからもう大丈夫だよ」  そう言っていつもどおりに出かけて行った。  その夜、少し遅めに帰ってきた夫と晩御飯を食べながら、あらためてタイムリープで起きた事を話した。それを茶化すことなく聞きながらうんうんと頷き、ときおり大変だったねと言ってくれたので、私の心はだいぶ晴れてきた。 「結局なんでそうなったのかなぁ」 「あの化粧品の瓶をさ、その手にくわしい知り合いに見せたところ、これじゃないかなって」  夫はスマホを取り出し画像を見せる、そこにはあのナイトクリームの背面に印刷されている詳細が写されていた。 「消費期限の日付がさ、印刷ミスか汚れかわかんないけど百年前になっているんだよ」 「それがどうしたの」 「付喪神って聞いたことないかい。物が百年を経ると妖怪になるって。たぶんこいつが百年経って付喪神になったと勘違いして捨てられたことに腹を立てて悪戯したんじゃないかな」 「そんな」 物の勘違いであんな目にあったと思ったら、よけい腹が立ってきた。 「お祓いをしてから日付を直しておいたよ、もう大丈夫だからね」  その夜はさすがに寝化粧をする気になれず、風呂上がりに白湯だけを飲んで、夫に手を繋いでもらって眠りについた。  そして無事に朝を迎えて、心からもう大丈夫だと安心できた。  そして一年後、私はもう寝化粧をしていない。いや、している余裕がないからだ。生まれたばかりの娘の世話で。  ひょっとしたらあのナイトクリームは私の望みをかなえるために、私達夫婦に刺激をあたえようと、あんな悪戯をしたのかもと時々思う。 ーー 了 ーー
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