1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
そしてドレッサーの前に座っている、間違いない、これは毎日の繰り返しではなく、今、ついさっきの事を繰り返している。それに気づいた瞬間、悲鳴をあげてしまった。
あまりに大きな声だったので、寝たフリしていた夫がこちらを見る。
「あなた、春樹さん、おかしいの、おかしいのよ」
ストールに座ったまま、助けを求めるように叫んだが、夫は面倒臭そうに顔をしかめる。
「なんだい、新しい化粧品が合わなかったのかい」
「そうじゃないの、寝れないのよ」
「寝る前に化粧なんかするから目が覚めるんだよ、ベッドに入って横になれば寝られるさ」
「そうじゃない、そうじゃないの、ベッドに入れないのよ」
「はあぁ、何言ってるんだよ、早く来いよ」
夫に呼ばれて恐る恐るベッドに向かい、目の前に立ち尽くす。やれやれしょうがないなという感じで夫が私の手を引っ張りベッドへと引っ張り込もうとしたが、次の瞬間にはまたドレッサーの前でストールに座っていた。
「いやああああ」
私の叫び声に夫が起き上がり、どうしたんだと訊ねる。
「ね、言ったでしょ、ベッドに入れないのよ」
「なに言ってるんだよ、普通に入ればいいじゃないか」
「さっき言ったでしょ、入ろうとするとドレッサー前に戻っちゃうのよ」
「さっきってなんだよ、なんにも言われてないぞ」
「言ったでしょ」
夫は不機嫌そうに知らないと言って、ベッドにもぐり込んでしまった。その言い方と態度で本当に知らないと感じた。どうして……。
「まさか」
ドレッサーの上に置いてあったスマホを手に取り、時刻を確認したあとストールの上に置いて、録画しながらベッドに入ろうとした。
またドレッサーの前でストールに座っていた。スマホはドレッサーの上にある、すぐに時刻を確認する。
「戻っている……」
間違いない、同じ時間を繰り返している、そしておそらくそれはベッドに入ろうとすると戻るみたいだ。
夫はまったく気づいていない、目の前にいるのに、助けを求めても取り合ってくれない、不意に怒りが湧いてきた。
さっき捨てたクリームの瓶をゴミ箱からとりだし、夫に投げつけた。
「いてぇ、何するんだよ」
「助けてよ、なんとかしてよ」
「何をだよ」
「いいから助けてよ、寝れないのよ、戻っちゃうのよぉ」
泣きながらすがるように助けを求めるが、夫は怪訝な顔をするばかりだった。なんて頼り無い人なんだろう、こんな人だとは思わなかった、結婚しなきゃよかった、なんで、なんで、私がこんな目にあわなくちゃいけないのよぉ。
最初のコメントを投稿しよう!