ナイトルーティン[読みきり]

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 怖くてたまらなくなった私は、寝室を出てリビングに移りソファーに座った。よかった、出られるのが分かってホッとした。  夫が寝室から出てきて、心配そうな顔をして話しかけてきた。 「どうしたんだおい、何をそんなにイライラしているんだよ」  少し安心した私は、さっきから同じ時間を繰り返している事を話した。話しているうちに自分の言っていることが信じられないことだと自覚したけれど、意外にも夫は、そんなバカなと否定しなかった。そのことに少し驚いてしまった。 「今日子、信じるから落ち着いて聞いてほしい、おそらく君がなっているのはタイムリープといって、同じ時間を繰り返す現象だ。つまりまた戻る可能性がある」 「そ、そんな」 「いいから落ち着いて、繰り返しを抜け出す方法はある、必ずある、だから落ち着くんだ」  まるで何もかも知っているような言い方に、私は不思議に思う。 「今から大事なことを三つ言う。どんな事態になっても忘れないでくれ、いいかい」  わけが分からなかったけど、藁にもすがる思いとはこういう事をいうのだろう、私は深く頷いた。 「ひとつ目は、戻ってしまったら必ず僕にこう言うんだ、タイムリープにつかまったどうしたらいいと」 「どうして」 「戻るということは僕は覚えてないからだ、だが君がそう言えば、その時の僕は真剣に君の話を聞く、必ずだ」  私はわかったと言う。 「二つ目だ。その時の僕に、何回目で何をやって戻ったかをできるだけ細かく伝えるんだ」 「それで助かるの」 「いや、分からない。慌てるな落ち着いて、これは消去法なんだ、やってない事を試してみて、そうじゃないを繰り返して原因をあぶり出す、そういうやり方なんだ」 「どうやって」 「今のところは寝室に原因があると思う。何かいつもと違うことをやった覚えはあるかい」 「無いわ。いつもどおりドレッサーの前で寝化粧をして、あなたに毎晩やってて飽きないかと言われて、ベッドに入ろうとしただけよ」 「わかった、じゃあ今夜はリビングで寝よう、布団を持ってくるからここにいて」  離れるのは嫌だったが、すぐに戻ってくるからと諭されて待つことにした。寝室に入ったまま出てこないのではないだろうか、またドレッサーの前にいるのではないだろうかと、怖くて生きた心地をしなかったが、夫は布団を持ってちゃんと戻ってきてくれた。  ソファの端に座り、ひざ枕をしてやるから安心しろと言われたとき、ああこの優しさに惹かれたんだっけと思い出す。横になり、ひざ枕をしてもらい、布団をかけてもらう。安心して深呼吸したら男の匂いがした。 「最後の三つ目だ。結局は自力で抜け出すしかないから、絶対自分を見失うな、必ず助かるからな」 ひざ枕をしながら私の手を片手で握り、もう片方の手で頭を撫でてくれながら夫は、春樹さんは、優しく力強くそう言ってくれて、安心して目を瞑った。
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