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そして私はまたドレッサーの前に座っていた。
今度は叫ばない、私はひとりではないのだから。とはいえ恐る恐る夫にタイムリープしているみたいと言ってみる。ベッドから上半身を起こして私の顔をまじまじと見ながら訊ねた。
「どうしてそう思うんだい」
「あなたがそう言ったから、戻ったらそう言えって、今までのことを出来るだけ話せって……」
しばらく黙っていたが、今までの事を話してくれと言ってくれたので、私はなるだけ思い出しながら全部伝えた。話が前後したり、どもったりしてもずっと耳を傾けてくれていた。
「寝室でもリビングでも戻ったということは、つまり今のところは寝るというか目を瞑ると戻るようだな」
「私もそう思う」
「起点は、戻る場所と時間は、どうなんだい」
「同じ時間にドレッサーの前に座っているわ」
「じゃあおそらく、その前に何か変わったことをしたんだ。心当たりはないかい」
前の回の夫もそう言ってた、そして私には心当たりは今回も無かった。
「じゃあ確かめるために寝てみるかい」
「いやよ、今度のあなたが覚えているか分からないもの、寝たくない、このまま起きてる」
ベッドから出てきた夫とリビングに移り、ソファーに一緒に座り夫に抱きついた、本当にずっとそのまま起きていたのに、朝方にうとうととしてしまい、気がついたらドレッサーの前に座っていた。
怒りも恐怖も無かった、ただまたかとうんざりした。
「なにが原因なんだろう」
鏡に映る自分に問いかけて気がついた、寝化粧をしていないことに。
「あれ、たしかお化粧してからベッドに行ったよね」
戻るのは寝ることで、始まるのはドレッサーの前に座ること。つまりここから何かいつもと違うことをしたのだろう、何をしたのだろう分からない。
「とりあえず同じ事をしよう」
白湯を少し飲む、顔をマッサージする、パックをする、そしてナイトクリームを塗る……、残り少ない瓶を捨てて新しいのを取り出す。
ブォン
何かがズレた感覚があった。気をつけてやらなければ気がつかない程の小さな何かのズレ、直感した、ここだ。何が違った、何が今までと違った、何が……。
手に持っている新しいナイトクリームの瓶を見ながら問いかけて気がついた。これだ、瓶を新しいのに替えたことだ。
私は新しいのを元に戻すと、今まで使っていたのをゴミ箱から取り出す。頑張ればまだ一回使えるくらいのクリームが残っている。瓶に指を入れてかき集めて完全に使い切ってみた。そしてまつ毛美容液を塗り、リップクリームを塗り、ベッドに向かいそして潜り込んだ。
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