37人が本棚に入れています
本棚に追加
ところが、背中に何か硬いものが当たってることにきがついた。なんか気になるな。ちょっと聞いてみよう。
「この背中に当たっているものはなに?」
「あ、これ? ちょっと腰痛めちゃって、サスペンダーしてるんだ。心配してくれてるの? ありがとう」
サスペンダーか、紗江ちゃんも大変なんだな。顔を見るとほのかに紅いような気がする。ん? 耳の上に黒い角みたいなものが見える。何だか気になる。
「この耳の上にあるのは何?」
「これ、ウイッグだよ。最近流行ってるんだ」
「(うるさいな。そうだ、これを使おう)」
ん? 彼女が小声で何か言ったかと思うと、ほのかに甘い香りがしてきた。
「なんか、甘い匂いがするね」
「これはね、私のお気に入りの香水なんだよ。いい匂いでしょ」
とても心地よい香りに吸い寄せられてしまう。今まで気にしてきたことが、なんだかどうでもよくなって、全て紗江ちゃんに委ねてしまって大丈夫な気がしてきた……
「さあ、家に着いたわ。どうぞ上がって」
なんだか少し古びた洋館に案内された。あとから考えれば、幽霊でも出そうな不気味な雰囲気なのに、そんなことはどうでも良くなってきた。
「念のため、戸締まりしておくね。ちょっと散らかってるけど、リビングにどうぞ、ここに腰掛けて。あ、ここも締めておくわね。それじゃあ……」
促されるままにソファーに座ると、紗江ちゃんは、スーツに手をかけた。も、もしかして……!?
「私の正体、見せてあげる」
声が突然、今までの柔らかなものからきついお姉さんのように変わったかと思うと、黒い霧のようなものが彼女を包んだ。
最初のコメントを投稿しよう!