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徳山拓信は、リビングでノートパソコンを見つめ続けていた。次々チェックをしては、完了のマークを入れてゆく。ある程度溜まったらそれを、総勘定元帳のシステムにアップする。そういった作業を、彼はもう何時間も続けていた。
そうしている間にも、伝票とエビデンスが添付されたメールは、続々とボックスに届く。未読のメールは、百件を超えていた。しばらくは増える一方だろう。月初めの、機械的な辟易するような作業。しかしそれで、拓信は収入を得ているのである。作業を止めるわけには、いかなかった。
はあ。コーヒーでも飲むか、拓信は思う。彼はキッチンに行き冷蔵庫の中から、ミルクと砂糖がたっぷり入ったカフェオレのペットボトルを取り出した。リビングに戻り、それをちびちびと飲む。甘い物を摂ると集中力が戻ってくるような気がした。
ふとテーブルの下に置いてある、充電中のスマホから音が鳴った。SNSの新着メッセージの着信音だった。
やれやれ。今は新着ってのに、うんざりしてるんだけどな。彼はそう思いながら、スマホを手に持つと、メッセージを確認した。
繁美からだった。彼女は、徳山家の近くの弁当工場に午後四時までパートに行っている。
【ランチ、いっしょにどう? もちろんあなたのおごりで。おこづかい余って、困ってるんじゃない? あのイタリアンの前で、十二時十五分に待ってる。時間厳守ね。昼休みが終わっちゃうとたいへんだから】
たしかに小遣いは、最近余裕があった。小遣いの大半を費やす上司や同僚との飲み会は、いつやったか思い出せないほど随分前に会社から禁止にされていた。それに、これといって欲しいものがないので、買い物もあまりしない。せいぜい、ずっと読んでる漫画の続きが出た時に、通販で買うくらいだった。
拓信の在宅勤務の日の昼飯は、冷蔵庫にある残り物や、繁美が作り置きしてある冷たいおかずを温めて、簡単に済ますことが多かった。
たまには外食したいな、俺のおごりだけど。そう思いながら、拓信はスマホに了解のメッセージを書いた。
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