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「ちょっと待っててもらえるかな」
そう言って俺は部屋の片付けを始めようとした 俺の部屋はいつだって散らかっている
すると彼女は「私も手伝います」と言って部屋に上がり込んできた
「ちょっと待って」
制止しようとした俺に彼女は畳み掛けた
「私今日からここでお世話になるので」
「は?」
思考停止して動けない俺を他所に彼女は掃除を始めた
「お世話になるってどういうこと?」
「ここで暮らすと言うことです」
「え?」
困惑する俺などお構いなく彼女は俺の部屋をどんどん片付けていった
「ちょっと待って はじめましてだよね?」
そう言うと彼女の手が止まった
「はじめましてです ただ私はあなたを知っています 赤木政宗さん」
「なんで知ってるの?」
赤木政宗は俺の名前だ この子は俺を知っている やはり何かの罠なのか 彼女は続ける
「覚えてないですか?」
「覚えてるってだから何を?」
「覚えてる?のその言葉の意味を」
「え?覚えてるの言葉の意味?どゆこと?」
彼女は困った顔をした 俺も困っている
「私は赤木政宗さん あなたが覚えているのかそれを聞きにきました」
「何がなんだかわかんないんだけど」
「私の名前は日野葵です」
その名前に記憶はない
「歳は十九歳です 一人っ子です 父は会社を経営しています 政宗さんには私のことを好きになってもらいます」
そう言うと彼女はまた片付けを始めた
え?ええー?
俺は心の中で叫んだ なんだこの状況 なぜこんなに綺麗な子が俺の家に来て 俺を知っていて「わたしのことを好きになってもらいます」という逆告白をしているのか?
自分で言うのもあれだが俺は普通だ 顔は中の中くらい 飛び抜けた取り柄はない 身長も男子平均だ そんな俺になぜ?
「本当わからないのだけど俺が日野さんを好きになればいいの?」
「そうです」
彼女は俺の方を見ずに答えた
「日野さん俺のタイプだからなんならもう好きなんだけど それでいいのかな?」
彼女は片付けの手を早めて
「それくらいじゃ足りないです!もっと心臓をドキドキさせてください」
と言った
可愛すぎだ
心臓をドキドキさせてくださいだ?
なんなら俺の心臓あげますけど?
浮かれるのが追いつかない俺に彼女は続けた
「でも一番は『覚えてる?』の答えを この心臓に聞かせて欲しいです」
そう言うと彼女は片付けの手を止め 胸に手をやり下を向いた
「よくわかんないけどわかったよ 俺が日野さんみたいな綺麗な子の申し出断る理由ないから」
そう言い 俺も片付けを始めた
「やっぱり優しいですね」
「やっぱり?」
「なんでもないです よろしくお願いします」
こんな子と同棲できるなんて
俺が妄想の世界に入ろうとした時彼女は言った
「期限は十日でお願いします」
「期限があるの?」
「勿論です 私も生活があるので」
幾つかの妄想が壊れた
「じゃあ俺は十日以内に君を好きになって『覚えてる』の答えを見つけないといけないってこと?」
「そうです」
「見つからなかったら?」
「必ず見つけてください」
彼女は悲しそうな顔をした
俺は俺の妄想の核たる部分について聞いてみた
「因みに俺が日野さんを好きになるって事は俺達付き合うって事だよね?」
「それはないですね 私政宗さんタイプじゃないので」
即答も即答だった
俺の全ての妄想は跡形もなく吹き飛んだ
好きになってくれと頼まれたのに好きになっても付き合えない なんなのだその半殺しは その美貌ならなんでも許されると思っているのか
「政宗さんは私を好きになったらそれでいいのです 兎にも角にもまず掃除です このままじゃ私ここに住めませんので」
そう言ってショックを受け動けない俺など構うことなく彼女は片付けを続けた
こうして意味がわからないまま謎の女の子と俺の同棲が始まった
すべてはあいつの差金で淡い復讐だった
かつて「俺の半分」そう呼んでいた
あいつの
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