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中学一年の五月から俺と星弥は朝一緒に登校するようになった 家は近くなかったが俺がいつも星弥を迎えに行った
大企業伊野グループ会長の次男坊である星弥の家は大豪邸だった まず2mほどの鉄格子の門があり 大理石の階段を登ると玄関に着く どれだけ広いかわからない家は三階建で地下室まであったそうだ
星弥の両親は俺をよく思ってなかったようで 俺は玄関までしか入れてもらえなかった
仕方ないから俺はいつも門の前で星弥が来るのを待っていた
「よう 政宗」
星弥は食パン片手に大理石の階段を降りてきた それはまるでドラマのワンシーンのようだった
「本当お前って様になってるよな」
「あー?お前まで惚れんなよ俺に」
「惚れねぇよバーカ」
いつもそんな会話で俺たちの朝は始まった
星弥は勉強は学年トップで所属していたバスケ部では1年の頃からエースと呼ばれていた 対して俺は成績はそこそこで 入部したサッカー部は練習のきつさから半年で辞めた 本当対照的な二人だった
だが一緒にいるとなぜかとても氣楽だった
「なんでお前バスケ辞めたんだよ?」
俺たちが二年になると星弥は部活を突然辞めた
「飽きた 俺よりうまい奴いねぇし」
「かー嫌な奴だね まじ羨ましいわ お前叶わないことってあんの?」
冗談半分で聞いた俺に珍しく星弥は真剣に言った
「あるよ 一つだけ」
「まじ?何それ?」
星弥は答えなかった
その頃からだ 星弥があのノートを持ち歩くようになったのは
「引き寄せの法則って知ってるか?」
「知らねえ」
「強く願うこと イメージすることは叶うんだってよ」
そう言って星弥はノートに色んな夢を描いたり行きたい場所の写真を貼ったりしていた 最初は薄かったノートは日に日に分厚くなっていった
ある時星弥が言った
「このノートでお前の夢も叶えてやるよ」
「え?まじ?」
「理想の女 言ってみ」
絵も天才だった星弥は警察の似顔絵師のように俺が言った特徴をもとに俺の理想の女性を描くと言った
「綺麗な瞳で 鼻は小鼻で ちょっと丸顔で 髪は胸くらいまであるストレート 胸は綺麗なCカップ 足は細くて身長は160cmくらいかな」
「できたぞ」
そう言って星弥が見せた絵はとんでもなく適当なブスが描かれていた
「なんだよこれ!全然違うだろ」
「だからいつも言ってんだろ 女は顔じゃねぇって お前が言うような美人いるかもしんねぇけどまず性格悪いから ちょっとコンプレックスあるくらいが女はいいんだよ」
星弥が言うからそうなのかもしれないと少し思った
二年の秋くらいから星弥はよく学校を休むようになり 会った時も星弥はどこか元気がなかった
「最近お前おかしくね?」
俺がそう聞くと
「お前高校どこ行くんだ?」
と逆に質問してきた
「高校?考えてないけど行ける学校行くよ お前は?」
「俺は遠くに行く」
「遠く?」
高校でも一緒にいるつもりだった俺は焦った
「まさか東京とか?」
「いやもっと遠い アメリカだ」
衝撃だった 高校をどこに行くかすら決めていない俺に対して 星弥はアメリカの高校への進学を考えていた
改めて俺と星弥は住む世界が違うのだと思い俺は寂しくなった
俺が落ち込んでいるのに氣づいたのか星弥は俺の得意な話をしてくれた
「お前さONE PIECEで誰が一番好き?」
「俺はやっぱりルフィかな 星弥は?」
「俺はヒルルクだ」
「ヒルルク?そこいく? そういうとこかもな」
「あ?何が?」
「お前がモテるとこ」
得意な話でも俺は打ちのめされた
英語の勉強が忙しいらしく星弥は三年になるとさらに学校に来なくなった そしてやはりたまに会う星弥も前のように元気がなかった よほど勉強してたのだろう
星弥は中学卒業と同時に準備や試験の為渡米することになっていた 一方俺は最後の追い込みでなんとか地元の進学校に合格した
星弥が渡米する日 俺は空港まで星弥を見送りに行った その日星弥は前の星弥のように元気で自信に満ち溢れていた 夢を叶えた男のようだった
「ありがとな政宗」
「アメリカでもお前らしくやれよ」
「ああ」
俺は泣きそうだったがなんとか堪えていた
なのに いつも冷静だった星弥が突然泣き出した
それを見て俺の涙腺も崩壊した 泣きながら俺は安心していた 星弥も寂しいのだと 星弥も俺を必要としてくれているのだと
俺たちはかっこ悪く 抱き合い泣き続けた
五分程泣きあい 涙を拭くと星弥は意味のわからない事を言った
「今度会った時一番に聞くからな」
「何を?」
「俺が生きてるのかどうか」
本当に意味がわからなかった
「は?お前何言ってんの?」
「お礼はちゃんとするからよ 答えてくれよな 頼んだぜ 俺の半分」
そう言うと星弥は映画のワンシーンのような後ろ姿で旅立っていった
一生会えないわけじゃない 連絡だっていつでも取れる
俺はそう自分に言い聞かせ 星弥を見送った
星弥の乗った飛行機が飛び立つのを見届けて「またな俺の半分」と連絡した その時俺の氣分は明るかった
ただそれが既読になることはなかった
見送ったあの日から星弥は音信不通になった
そして俺が高校生活に慣れ始めたその年の六月
俺は星弥が死んだのを知った
あの時ほど俺は自分の無力さを感じたことはない
「俺の半分」そう呼んでいた存在がいつ、そしてなぜ死んだのかも俺にはわからなかった
元々俺を遠ざけていたあいつの両親は俺に何も教えてくれなかった
俺はただ無力だった
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