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 子供が二人とも独立して、また夫婦二人っきりの生活に戻った矢先のことだった。妻の美由紀にステージ4のガンが発覚した。それからはあっという間だった。いきなり妻に先立たれてしまった僕は、ショックから立ち直れずにいた。仕事も全く手につかない。  結局僕は、会社を辞めることにした。定年まで後六年を残すところだったが、折しも不況で会社が早期退職者を募集しており、破格の退職金を払うというのだ。渡りに舟だった。  退職したとしても、一人になった僕を気遣って長男夫婦が同居してくれることになったので、生活面での不自由は全くない。家のローンも既に完済している。  美由紀のところに行きたい、という気持ちも、正直ないわけじゃない。だけど、子供たちに「それだけはやめてくれ」と釘を刺されてしまった。もちろん僕も、これ以上家族を悲しませるのは本意じゃない。  それに。  美由紀のことを一番覚えている人間は、彼女に三十年連れ添った僕であることは間違いないだろう。
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