0人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は1時間程静かにじっとしていると、ベビーバスケットを抱えた1人の女性が現れ、この女性は僕の母だと確信した。
母は辺りを気にしながら児童養護施設の門を開けて侵入し、玄関に近づいてそっとガラス戸を開けて玄関の中にベビーバスケットをそっと置いてその上に手紙を添えているようだった。
母は名残惜しそうにベビーバスケットの中の赤ん坊の顔をまじまじと見つめて赤ん坊の頬に手を添えて、少しすると玄関のガラス戸を開けて出てきた。
この時僕は、暗がりの中でも母の顔を正面からしっかり見ることができたが、この母の顔をどこかで見たような感じがした。
その瞬間母の目から涙がこぼれ落ちる姿を目の当たりにして、僕自身もとても悲しい心情に襲われた。
母は児童養護施設の門を出て、足早に去って行ってしまった。
僕がもう一度児童養護施設の玄関を見ると赤ん坊が泣きだしていて、玄関から職員が飛び出してきて辺りを見回しているようだった。
その職員は、きっと子供を置き去りにした人物を探そうとしていたに違いない。
少しするとその職員は諦めたのか、児童養護施設の中に戻っていった。
僕は、そっと児童養護施設の外からもう一度ガラス張りの玄関の中の様子を伺うと、園長先生が大切に赤ちゃんを抱きかかえている姿が見えた。
園長先生と何人かの職員が何か話しをしているようで、そのうち赤ちゃんを抱いて児童養護施設の奥に入っていった。
この光景を見て、僕は何故か悲しくなって目から涙がこぼれ落ちた。
僕はその場で少しじっとしていたけれど、時刻が20時30分近くになった時に時間旅行社に戻ることにした。
時間旅行社に戻った時は21時を過ぎていて、1994年10月12日の時間旅行社の研究施設から元の時代に戻った。
時間旅行社から自宅に帰った僕は、母が僕を捨てた時に母の目からこぼれ落ちた涙を思い出して、僕はとても悲しくなった。
この日の夜は、なかなか眠りにつくことができなかった。
最初のコメントを投稿しよう!