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「一ノ瀬大賀! 黒川さんを離せ!」
謎の一団――男女混合チームらしい――の10m手前で一ノ瀬が砂と枯れ草を散らして停止すると、彼らの内の一人が喚いた。が、呼吸を整えてそれに反応する前に別の一人が身を乗り出した。
「ざっけんな。そっちこそ一ノ瀬を乗り物扱い、いや下僕扱いしやがって」
「黒川さんにそんな口きいてただで済むと思うなよ、このお子様」
「ああっ!?」
何やら見苦しい内輪揉めが始まった。
「見ろ。たい焼きを転送して正解だったろ? 黒川さんは『くろかめ屋』のたい焼きならすぐ見つけるからな」
かと思うと、口論を余所に自慢げにそう語っている人もいる。
一ノ瀬は黒川を下ろして彼の顔を見た。首を小さく横に振った彼は、例の黒マスクを装着すると悠然と進み出た。
「どうやら事情を知っているようだな。返答次第では容赦しない」
温度のない声が響いた途端、相手方の全員が凍りついた。ヘロヘロの癖にそんな大きく出ていいのかよ、と思いつつ、一ノ瀬もパキパキと指の関節を鳴らす。普段だったらこの時点で全員病院送りにしている自信がある。
「一ノ瀬はともかく、何で黒川まで怒ってんだよ!? あの『アンノウン』とかいうやつ止めれる気しねーよ」
「あ、あんたのせいだ青木! 何とかしてよ」
「お前らが来るって言ったせいで俺のエネルギーギリギリなんだけど!?」
誰かが大声でまくし立てた。
「そうか、記憶! きっとこっちもおかしなことになってんだよ。三島早く!」
パチン。頭の奥底で火花が弾けた。
『治安組織の風上にも置けないクズだな』
そうだ、一ノ瀬にそう言ったのは黒川その人だった。
政府高官との結びつきが噂される治安組織。街中で派手に活動中だった一ノ瀬達の前に現れた彼らは、特に黒川は、こちらのやり方を激しく口撃したのだ。
思い出した。一ノ瀬は直前まで黒川と戦っていたのだ。
もう一度、黒川と顔を見合わせる。一ノ瀬は冷気をまとった右の拳を左手にパシッと打ちつけた。
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