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「およそ六十メートル先、目的地です」
車は動いていないのに、目的地が近づいて来る。
何か……何か得体の知れないものが、この車に近づいて来ている。
誰もがそう理解して、車内は恐怖でパニック状態だった。
「おい、さっさと車をバックさせろ!」
「で、でも……」
「逃げるんだよ!」
俺は、運転席の後輩に向かってそう叫んだ。
このままここにいたら、確実にまずいことになる。
何故だかそんな予感がして、とにかく逃げなければ、と躍起になっていた。
「およそ五十メートル先、目的地です」
無機質な声と共に、車は猛スピードでバックした。
舗装もされていない道のせいで、車が跳ねるように揺れる。
頭をぶつけそうになったが、運転手に文句を言うような余裕はない。
少しでも話そうとすれば舌を噛む。
アスファルトで舗装された道に出た時には、カーナビは沈黙していたが……車をUターンさせ、俺たちはすぐに山を出た。
……ユニバ?
それどころじゃないって。
マジで怖かったんだ。
とにかく近場の町に行って、落ち着くために適当なコンビニに入ったんだ。
あの時ほど、名前も知らない他人の存在に安心したことはないぜ。
もしもあの時、あのまま近づいて来る何かを待っていたら……俺たちはどうなっていたんだろうな?
そうそう、後輩だけど。未だにあの中古車に乗ってるよ。
流石に、お祓いはしたみたいだけどな。
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