一話「だるまさんが転んだ」

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   これは、私が実際に体験した出来事です。 「ねぇ、知ってる? お風呂で頭を洗ってる時にね、だるまさんが転んだって言ったり、考えたりしちゃいけないんだって」  そう話しかけて来たのは、A子でした。  A子はクラスメイトで、休み時間は必ず一緒におしゃべりをするくらい仲良しの友達です。 「だるまさんが転んだ? 考えるのもダメなの?」 「そう、ダメ。一回でも頭に浮かんだらアウト」 「なんで?」  首を傾げた私に、A子はいたずらっ子のような笑みを浮かべて説明を始めました。 「頭を洗う時ってさ、ちょっと前屈みになって、泡が入らないように目をつむるでしょ?」 「うん」 「その姿がね、だるまさんが転んだの鬼役の子にそっくりに見えるんだって」  私は、頭を洗う自分の後ろ姿を想像してみました。  確かに、ちょっと似てるかもしれません。 「でも、似てるからダメなの?」 「それだけじゃないよ。……あのね、水場には幽霊が集まるんだって」  A子は私に顔を寄せると、ひそひそ声で言いました。 「水場?」 「お風呂とか、キッチンとか、トイレとか。水がある場所のこと」  どうして水があると幽霊が集まるんだろう? と思ったけど、聞くのはやめました。  だって、A子も詳しくは分からないだろうし。  せっかく怖い話をしているのに、質問をして水を差すのも悪い気がしたからです。  
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