45人が本棚に入れています
本棚に追加
ただ、カーナビの指示に従って進む車は、明らかに変な道に入って行くんだ。
どんどん人里を離れて、舗装された山道を登って行く。
「ねぇ、ホントに大丈夫?」
それまでは笑って話していた後部座席の連中も、来たこともない山道を走り出してからは、不安そうに後輩に尋ねていた。
「……ちょっと、目的地設定し直しますね」
路肩に車を停めて、後輩がカーナビを操作する。
全員でその作業を見守って、確かに目的地がユニバであることも確認したんだ。
「その先、右方向です」
けどな、無機質な女の声は、車を山の中に案内しようとする。
何度も車を停めて目的地の設定をし直すんだが……ダメなんだ。
高速を使うルート、使わないルート、最速で着けるルート。
全部選んで設定し直しても、絶対に山の中を進めって言うんだ。
そのうち、道は舗装もされていないデコボコの、車一台がギリギリで通れるような狭いものに変わった。
車内は完全にお通夜ムードで、誰も何も言わなかった。
「およそ百メートル先、目的地です」
カーナビが言って、俺たちは押し黙ったまま、辺りを見回した。
両脇の窓に触りそうなくらい近くに、鬱蒼と茂った葉がある。
前方に道はなく、たくさんの長い草で先は見えなかった。
ここが、目的地?
そんなわけないだろ。
「なぁ、引き返そうぜ。このカーナビ、壊れてるみたいだしよ」
「そ、そうだよ。暗くなったらヤバいよ」
こんな場所で夜になったら、迷わずに帰れる自信もない。
「およそ九十メートル先、目的地です」
後輩が、車をバックさせようとした時だった。
ポーンという音の後、カーナビがそう告げる。
車は1ミリだって前身していない。
けど、目的地が近づいている。
「およそ八十メートル先、目的地です」
またポーンという音がなって、カーナビが言う。
「およそ七十メートル先、目的地です」
「な、なんだよコレ……」
動揺した声で呟いて、後輩が案内を終了させようとカーナビを操作する。
画面に表示されたルートを削除しますか? という問いに対して、はいのボタンを何度も押すが一向にその先に進まない。
最初のコメントを投稿しよう!