二話「中古車のカーナビ」

3/4
前へ
/58ページ
次へ
   ただ、カーナビの指示に従って進む車は、明らかに変な道に入って行くんだ。  どんどん人里を離れて、舗装された山道を登って行く。 「ねぇ、ホントに大丈夫?」  それまでは笑って話していた後部座席の連中も、来たこともない山道を走り出してからは、不安そうに後輩に尋ねていた。 「……ちょっと、目的地設定し直しますね」  路肩に車を停めて、後輩がカーナビを操作する。  全員でその作業を見守って、確かに目的地がユニバであることも確認したんだ。 「その先、右方向です」  けどな、無機質な女の声は、車を山の中に案内しようとする。  何度も車を停めて目的地の設定をし直すんだが……ダメなんだ。  高速を使うルート、使わないルート、最速で着けるルート。  全部選んで設定し直しても、絶対に山の中を進めって言うんだ。  そのうち、道は舗装もされていないデコボコの、車一台がギリギリで通れるような狭いものに変わった。  車内は完全にお通夜ムードで、誰も何も言わなかった。 「およそ百メートル先、目的地です」  カーナビが言って、俺たちは押し黙ったまま、辺りを見回した。  両脇の窓に触りそうなくらい近くに、鬱蒼と茂った葉がある。  前方に道はなく、たくさんの長い草で先は見えなかった。  ここが、目的地?  そんなわけないだろ。 「なぁ、引き返そうぜ。このカーナビ、壊れてるみたいだしよ」 「そ、そうだよ。暗くなったらヤバいよ」  こんな場所で夜になったら、迷わずに帰れる自信もない。 「およそ九十メートル先、目的地です」  後輩が、車をバックさせようとした時だった。  ポーンという音の後、カーナビがそう告げる。  車は1ミリだって前身していない。  けど、目的地が近づいている。 「およそ八十メートル先、目的地です」  またポーンという音がなって、カーナビが言う。 「およそ七十メートル先、目的地です」 「な、なんだよコレ……」  動揺した声で呟いて、後輩が案内を終了させようとカーナビを操作する。  画面に表示されたルートを削除しますか? という問いに対して、はいのボタンを何度も押すが一向にその先に進まない。  
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加