0人が本棚に入れています
本棚に追加
3
インドネシアから日本に帰り、秋留は久方ぶりに帰った家のベッドで惰眠をむさぼった。
もう貯金はほとんどない。早く仕事を探さなくては。
焦る思いとは裏腹に、旅で疲れた体は休眠を欲し、丸一週間も、買い物に出る以外はほとんどをベッドの上で過ごす羽目になった。
ブログに載せていたメールフォームからメールが届いたのは、帰ってきてちょうど八日目のことだった。
ツイッターやインスタグラムの更新はさすがに止まっていたが、帰ってから旅紀行ブログの更新は続けていた。ブログは文章と写真をまとめてアップロードするので、旅中よりもこうして帰ってから一気に更新することが多い。
長大になってしまった、先日上げた記事に対する感想だろうか、と思いながらメールフォームから届いたメールの件名を見て、秋留は仰天した。
『書籍化のご相談 ○○社』
驚きながらも、本文に目を通す。まずはブログの内容が絶賛されていた。そしてブログの旅紀行記事をいくつかピックアップし、まとめて書籍にしないかという提案が綴られていた。
聞いたことのない出版社だったので、とりあえず疑ってグーグルで検索してみる。ホームページを見る限り、小規模ながらまともな会社のようだ。どこかで耳にしたタイトルの本も出していた。自費出版事業もやっていないので、自費出版を勧められることもなさそうだ。
そうとなれば、断る理由もない。秋留は早速、記入されていたメールアドレス宛にメールを送った。
写真集ではないから、カメラマンとしてデビューするわけではない。だが、限りなく夢が近い形で叶いそうだった。
どきどきしながら返事を待ちつつ、暇つぶしにツイッターを開いた。すると、ツイッターにダイレクトメッセージが届いていた。ブログの常連、オレンジさんからだ。
『帰国されて、ホッと一息つかれているであろうところ失礼します。ブログの感想、あとでコメント欄に書かせていただきます! 今度はかなり長くなりそうで、まとめてるところなんです。それで、いきなりな話ですみませんが、一度お会いできませんか?』
本当に、突然すぎる話だった。
オレンジさんはおそらく、女性だろう。秋留は性別をブログでもSNSでも男性だと明かしている。ブログの読者でSNSでつながっていたとはいえ、いきなり女性が会いたがるものだろうか?
思案したが、別に詐欺でもないだろうしと考えて秋留は『オーケーです。どこでお目にかかりますか?』と返した。
最初のコメントを投稿しよう!