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後悔したくない
「加奈、佐山くん、どうして……?」
ふたりの優しさは、見せかけだったの?
「それは俺から話すよ、カミチカ」
わたしの手を握っていた高遠が、にかっと笑った。
驚くわたしの肩をぽんぽんと軽く叩き、高遠は加奈と佐山くんに向かって話し始めた。
「佐山と加奈さんはね、中学の時から恋仲だったんだ。でも交際はまだ早いと親に反対され、加奈さんの両親は娘を他校に転校させた。ふたりの仲は自然消滅。そのはずだったのに、この高校で再会した。過去のわだかまりから、他人行儀に過ごしていたけど、カミチカの恋に刺激され、お互いの想いに気付いてしまった。そうだろ?」
佐山くんと加奈はしばし黙っていたけれど、やがてゆっくりと話し始めた。
「その通りだ、高遠。僕は今でも加奈さんのことを……」
「言ったらダメ!」
佐山くんの言葉を止めたのは、加奈だった。
「約束したでしょ。千香を傷つけ、ケガさせたお詫びに、彼女をふたりで守ろうって」
加奈と佐山くんが、なぜあれほど親切だったのか、理解してしまった。
「わたしを守るためだったの……?」
こられきれなくなったのか、加奈の目から涙があふれる。
「ごめんね、千香。傷つけてごめんなさい……」
泣きじゃくる加奈の細い肩を、佐山くんがそっと抱きしめた。ふたりの姿に、言葉はもう必要なかった。
わたしが探したかったもの。
それは恋した人への想い。
そして、もうひとつ。
大好きな親友との絆だったのだ。
わたしもここで泣きたかった。
でも伝えないと。後悔しない恋にするために……。
加奈も佐山くんも、もう苦しんでほしくない。
「加奈、佐山くん。わたしはふたりのこと許せない。だから気持ちを伝えあって恋人になって」
加奈が泣きはらした目で、驚いたようにわたしを見ている。
「幸せにならないと許さないから……」
泣きたいのを堪えて、必死に笑顔を浮かべる。
高遠がわたしの手をそっと握ってくれたのが、せめてもの心の支えだった。
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