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覚醒
「千香、千香……」
わたしを呼ぶ声が聞こえる。心配そうに何度も。だれ……? ゆっくりと、まぶたを開けた。
「千香!」
目を開けたわたしの視界に飛び込んできたのは、ぼろぼろと涙をこぼす、お母さんの顔だった。
「千香、気づいたのね!」
お母さんの声で、頭がずきんと痛んだ。じんじんとした痛みがわたしを、現実へと引き戻していく。
周囲を見渡すと、白い壁にクリーム色のカーテンが見えた。どうやら病院らしい。わたしだけ横になっているということは、わたしは入院してるの……?
「良かった……千香、本当に良かった……」
ベッドの反対側には、親友の加奈がいた。お母さんに負けないぐらい、涙を流している。加奈の隣には、学級委員の佐山くんもいた。加奈は副委員だから、彼女と一緒に来てくれたのかもしれない。佐山くんも涙ぐんでる。その表情を見たら、わたしまで泣けてきそう。
でもわたしはなぜ、病院にいるの?
「お母さん。わたし、何があったの?」
その場にいた全員の動きが止まり、困惑した表情でわたしを見つめている。
「千香、何も覚えてないの?」
最初に聞いてきたのは、加奈だった。
「わからない。頭が痛いけど、ケガしてる?」
加奈が信じられないといった様子で口元を抑えている。
「先生呼んでくるわ! 加奈さん、しばらく娘を頼むわね」
慌てた様子で病室を飛び出していく母の後ろ姿をぼんやり見送った。
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