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大学に入ってから三回目の夏が来た。
梅雨明けで蒸し暑い夏の夕暮れ。あの公園の池に背を向ける様に置かれた、ニスも剥がれた古いベンチに勇人と智哉と三人で座っている。
勇人が呟いた。
「ちょうど一年だな、まほちゃん……」
それを聞き、俺は二人にこの一年で考えた事を話し始めた。
「俺、あれから思ったんだ。麦わら帽子を探すのに俺達に会ったのは、まほちゃんのお父さんとお母さんがわざとした事じゃないかって」
二人は不思議そうな顔をして俺を見ている。
「なぁお前ら知ってるか?俺、あれから調べたんだ。今、日本で無戸籍の人って何人いると思う?公式発表なんてもんじゃない、実際は1万人いるんだ」
「1万人?」二人は驚いている。
「そう、女が離婚して300日以内に産んだ子は前夫の子になる。今は医師の証明で大丈夫になったみたいだけど…以前はそれが嫌で届け出したくないとか、まぁ不倫の末の子供は被害者だけど…。後は経済的とか生活環境とか色んな理由があるみたい」
「そんなん聞くとまほちゃんが可哀想に思えてくるな」勇人が呟いた。
「あぁ、まほちゃんがどんな理由でそうなったかはわからないけど、きっとご両親は、まほちゃんの存在を誰かに知って欲しかったのかも知れない」
智哉が「どういう事?」と聞いている。
「この世に産まれて誰にもその存在を知られず死んで行く我が子。せめて誰にでもいいからその存在を知って欲しくて麦わら帽子をこの公園に……」
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