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いきなりの衝撃、そして、暗転。
視界を奪われた中で近くから遠くから悲鳴と怒号が耳を劈いた。そして、しんと静まり返り、次の瞬間、再びの衝撃。爆発音。辺りの空気が渦巻くように動いた。
『爆発? トラブル? 俺、俺、ここで死ぬのか―?』
嫌だ! 死にたくない!! そう強く思った。それは、“輝かしい未来へ”と向け旅立ってから3年と少しが過ぎたある日のできごと。いったい、何でこんなことになったんだろう? ワープ孔で何かトラブルが??
そう思ったのを最後に、意識が、闇へと墜ちて行った。
***
次に気づいたとき、遠くにぼおっと明かりが見えた。何がどうなったのかわからない、けど、あそこまで行けば、助かる? 行けるか? いや、行かなくては。
強くそう思い、意識を光の外に向けた。そしてどのくらいの時間が流れたのか(数時間、それとも一瞬?)、突然、肺に空気がどっと流れ込んできて、息苦しさに俺は泣き喚いた。
「おめでとうございます!」
男の子です! …遠くで、誰かの声がして。
間もなく再び、俺の意識は遠のいた。
***
それから、2年が過ぎようとするころ。読んでいた雑誌から目を上げ、微笑みながら俺を覗き込み、“母さん”が言った。
「ねえベイビー、覚えている? あなたが、私のおなかの中にいたときのこと?」
そう、俺は、あの瞬間、再び赤ん坊になっていたんだ。
「そんなの、覚えているわけないわ」
呆れたような、少女の声。“母さん”の最初の子ども、10歳になる3人姉妹の長姉。娘にそう言われ、彼女はムッとした声で返した。
「そんなの、わからないわよ。この雑誌には、2歳くらいまで胎内の記憶があるって書いてあるし、もしかしたら…」
「ばかばかしい」
歳に似つかわしくない冷静な声で再び娘に遮られても、“母さん”はそれを無視して、俺に聞き続けた。どうなのサナン、ねえ、覚えているの? 教えて? と。
…正直、胎内の記憶はほとんどない。暗いところにいたら光が見えて、息苦さにもがいて―。気が付いたら、この世界にいた。それだけ。
だけど、“その前”の、いわゆる前世の記憶というやつなら、あの宇宙船に乗って旅立つ前のことから、はっきりと覚えている。たとえ非科学的と言われようとも、それは、事実。
俺は、トゥラス・ケイン、だった。トゥラス・ケインは、この星の下級民の家庭に生まれ、適合者に選ばれ12歳で船に乗りこの星を離れた。希望あるフロンティアへ、と華々しく宇宙へ送り出されてから3年が過ぎたある日、船は突然、大破。そこで、トゥラス・ケインとしての人生は幕を閉じた(らしい。状況から判断するに、そういうことだろう)。
ここに生まれて1年を経て後、俺は、ここが、元居た故郷の星であると確信した。なぜなら、俺の新しい名、『あなたのおじいさまからいただいたのよ』と“母さん”が語ったその名が、俺たちを宇宙に送り出す法決議をした上級議会のメンバーの1人にしてこのプロジェクトの広報担当者の男と同じものだったから。そう、それは、彼女の自慢の父、レオニ・サナン。
***
「あなたは、おじいさまによく似ているわ」
“母さん”はことあるごとに言った。そして、自分によく似た孫を、彼、レオニ・サナンは、とても可愛がった。周囲に誰もいないときには、生まれてまだ数ヵ月で、”言葉のわからない乳児”のはずの俺に、彼は秘密を吐露し、懺悔した。それは、俺にとっては、とても恐ろしく、そして、それよりも強く、強く、憤りを覚えさせる内容だった。
彼は言った。
『あの船たちは、この星を救うためのもの、貧しい中下級民の“余剰人員”を、希望ではなく、死地へ向かわせるためのものだった、自分はそれに加担してしまった。いや、今もなお、加担し続けているんだ』
と―。
なんてこと! そのために、俺は、俺の仲間たちは、殺されたのか。今も、大勢の人が、そうして希望の無い旅へと送り出されているのか!
…でも、今の俺はただの幼児。止める術もない。
To be Continued …
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