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3話 宿の町
馬を走らせ続けて数刻が経ったころ、すでに朝日が昇り始めていた。
馬達も疲労のせいか、どんどん足が重くなっていく様子が見て取れる。
それを見て、桃太郎自身も夜通し中移動した分の疲労が溜まっていた事に気づく。
「おっと、もう夜明けかぁ…さすがに疲れてきたな。とりあえずどっかで休むとするか!」
「ありがてぇ…あっしも腹減ってしまいましたわ。桃太郎様は走らなくていいですねぇ?」
「はっ!ひがみかよ。考えてみたら、おめぇらも昔に比べりゃタフになったもんだよな?」
「「「(あんたのおかげでな‼︎)」」」
3匹の怒りを込めた心の声が、今日初めて一言一句違わず重なった。
夜通し走った疲れを癒すためにたどり着いた一行が目にしたのは、煌びやかな町並であった。
「あーどこだと思ったら…ここは奈良井宿じゃねぇか。そういやここには一度だけ、鬼の目玉やら素材やらを高く買い取ってもらった事もあったっけなぁ。」
「そ、それだけでこんなに栄えるような数でしたかいねぇ?」
「猿親の言う通り、たったあんだけの少ない目玉だけでここまで栄えるわけねぇだろ?
おおかたいろんな国にいる連中がたくさん足を運んでたり、全国から来る旅人が宿泊したした分懐も潤っていったんだろうさ。」
「ふむ…それが妥当な見方ですな。」
「……(それもそうだろうが、なんか匂うぞ?)」
桃太郎の説明に雉殿も猿親も納得しているなかただ1匹、頭の中で否定している犬崎だけは一つの違和感を覚える。
まるで、姿を見せない何者が暗躍していたかのような不可解な匂いがこの町中たくさん溢れていたから。
桃太郎達によって麻袋に入れられたまま運ばれてきた、鬼の少女・沙羅も周囲の人間による話し声が聞こえ始める頃には目を覚ましていた。
だが、彼女は今おとなしく過ごす事を選ぶ……また痛い目に合わされるとその小さい体が本能的に悟ったからだ。
自分がどこに連れていかれるか分からなくて、本当は叫び声を上げたいほど怖くて怖くてたまらない!
彼女は一人、その気持ちを押し殺すために黙り続ける…
「おー!どなたかと思えば…桃太郎様ではありませぬか!お久しゅうございます。」
「よぉ、元気そうだなただ助。旅の道中にたまたま寄ったんだがよ、ここの長に頼んで一番良い宿で泊まりてぇんだ。今は誰がなってんだ?」
「ふっふっふ……何を隠そうこのおいらが、今やこの町の町長なんですわ!」
「マジかよ⁉︎」
「へへへ!」
桃太郎の昔馴染み…ただ助はまるで国の大名にでもなった気分でいるのか、その[低身長]には全くと言って良いほど似合わない体格もとい福よかな人物が、豪華な黄色い着物をまといドヤ顔を桃太郎へと向けている。
故に、ダボダボの格好をしたダサい男としか周りからも…ましてや桃太郎一行にまで見られているのだが、本人は気づいてなさそうだ。
「そういや宿をお探しなんですってね?ちょうどいいとこがありますんで、どうぞこちらに!」
「お、おう。じゃあ頼むわ!」
丈を調整されていない袴も上の着物も、彼が歩くたびに砂ぼこりでどんどん汚されていく。
桃太郎達は目の前の奇怪な姿をした昔なじみにむけて笑い声を上げたいのを必死に我慢しつつ、彼の後ろをついて目的地である宿屋へと赴くのであった。
「………」
なにやら影のように朧げな存在が、脇道の角から一行が進んでいく方向を把握する。
どうやら桃太郎が担いでいる麻袋に閉じ込められている[モノ]を狙っている様子だった…
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