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どうしても
そのころは、自分がいつか、あなたを表す「名前」でなくなるかもしれないということなど、考えてもいませんでした。
わたしは、あなたという存在を示す記号です。それならば、あなたは、この世界で肉体を持って呼吸するわたしなのだと、そう言うこともできるのではないでしょうか。
だからこそ、今日、この日がくることは、
いいえ、やめましょう。
わたしの人生……という言い方であっているのでしょうか、わたしが意識を持ち、この世に存在するようになってから初めてではないでしょうか。ここまで感傷的になるのは。
せっかくのおめでたい日に、こんな湿っぽいのはいけませんね。
それでも、どうしても。
今、わたしがここまで感傷的になるのは、今日のあなたが本当に美しいからです。
白くてふんわりとした衣装に身を包み、いつもよりも艶やかにメイクを施した、頭上に小さなティアラを乗せ、涙に潤んだ目で愛する人と家族を見つめる、あなたが。
わたしを描いた幼いあなたの顔ほど愛しいものの存在を知らないと先ほど言いました。
それは、嘘ではありませんが、本日はそれを撤回しましょう。
今日のあなたほど、愛しくもわたしの心をさまざまな意味で揺さぶるものをこれまでわたしは知りませんでした。
そう。これまで見た中でいちばん美しいあなたの姿。それを見納めとして、わたしは本当にこれであなたとお別れすることになるのです。
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