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「第一章、敵とのであい」
そう宗助が読み上げるとドラゴンの絵は消え、小鬼に向かい合っている少年の絵に変わった。少年が持っているのは、木の棒に、紙でできた盾。とても強そうには見えない。
「勇者見習いの少年は、小鬼に紙の盾を破られ、木の棒を壊されてしまった。なんとか村へ戻ってきた勇者見習いの少年は、武器屋と防具屋で、木の剣と木の盾を買い揃えたい。そのためにはお金を集めなくては」
そこまで読み進めて次のページを開いてみると、算数の問題がぎっしり並んでいた。それを見て、宗助は一瞬ひるんだが、左上の言葉を見て、やる気を出す。
『この問題ページの正答数によって、勇者見習いの少年にお金がたまります。勇者見習いの少年は、無事に木の剣と木の盾を手に入れることができるのでしょうか』
「よーし、頑張ってお金をためてあげよう」
宗助は、筆箱から鉛筆と消しゴムを取り出すと、早速問題にとりかかったのだった。木の棒と木の盾、といわず、鉄の剣に鉄の盾、それに鉄の防具とかも買ってやろうじゃないか。冒険にでるのなら、それくらいの準備は必要だ。
ゲームもあまり買ってもらったことのない宗助だが、友達の家で何度か、冒険に出かけるゲームをさせてもらったことがある。そのゲームでは、どんどん新しい町へ進み、その町の武器屋や防具屋でより強い装備を整えていた。これも、きっとそうやって物語が進んでいくんだ。そう、彼は思った。
宗助は服の袖をひじまでめくりあげる。彼は、久々に気持ちが燃え上がっていた。
それから数週間後のこと、今まで20点が最高点だった算数の小テストで彼は、満点を取ることができた。
テストで満点を取ったその夜。宗助は、本に向かって言った。
「ありがとう、キミのおかげで勉強が少しだけ好きになってきたかも」
すると、宗助の胸から、小さな光の玉が飛び出したかと思うと、本棚に入っていた一冊の本に飛び込んでいった。
おどろく宗助をよそに、その本は、ふわりと浮かび上がり、どこかへふっと姿を消した。その時、「物語と勉強ドリル」に文字が浮かび上がった。
『どういたしまして。これで、本当にあなたの本になりました。これからもどうぞ、よろしくお願いします』
「それはこっちのセリフだよ。これからもよろしくねっ」
宗助はそう言いつつ、旅立った一冊の本にもまた、思いをはせた。
宗助の友達によると、彼のそばにはいつでも同じタイトルのドリルがあり、それは中学、高校、大学へと進んだ後も変わらなかったという。
そんな彼のドリルのことを、周りの人間は「奇跡のドリル」と呼び、同じドリルを探し回ったが、とうとう誰も、見つけることができなかったそうだ。
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