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物語と勉強ドリル
宗助は、困っていた。
「お母さん、今日は好きな本を買ってくれるって言ったじゃん」
彼の小さな反撃は、お母さんの一言で蹴散らされてしまう。
「そんなこと、言ってません。好きな、勉強の本を買ってあげると言ったんです」
その強い口調に宗助はただ、うつむく。そして母親から手渡されたドリルを握りしめた。こんなことなら、家を出る前のお母さんの言葉を録音しておけばよかった。
いつもそうだ。『好きな本を買ってあげる』そう言って、本屋に連れてくるけれど、買ってもらえるのは、欲しくもないドリルばっかり。勉強の本ばっかり。
うつむく宗助とお母さんの傍らを、一組の親子が通り過ぎていく。
「お母さん、ありがとう。この本、ずーっと欲しかったんだ」
「よかったわね。ちゃんと読んで、大事にするのよ」
「僕だって、自分の読みたい本が欲しいよ……」
親子をうらめしく眺めている彼の小さなつぶやきは、お母さんには届かない。
宗助は泣きたくなる。僕だって、自分が読みたいと思える本を買ってほしい。勉強に関係ない、物語の本が欲しい。でも、買ってもらえない。
物語の本を買ってもらえたことは、彼の記憶の中では一度もない。図書館にも、連れて行ってもらえない。時々こうやって本屋に連れて来られては、自分の部屋に、欲しくもないドリルばかりが増えていく。
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