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「ウワサ?」
宗助は首をかしげる。カイトは得意げな顔をする。
「なんだ、ガリは知らねーのかぁ。ま、お前、勉強できねーガリだもんな、当然かぁ」
そう前置いたうえで、彼はこう言った。
「この宮丸書店の中によぉ、選ばれた人にしか行けねぇ、別の本屋があってよぉ。そこに、世界に一冊しかねぇような本がいーっぱいあるってウワサなんだよぉ」
それを聞いて、目の前に大の苦手なカイトがいるにも関わらず、宗助は自分の胸が高鳴っていることに気づいた。世界に一冊しかない本がたくさんある場所。そんなところが本当にあるのなら、行ってみたい。
「それって、どこにあるの……かな」
宗助の言葉は途中で、豪快な笑い方でかき消される。
「何お前、行ってみたいワケ? 無理無理。お前トロいから、無理に決まってるってぇ」
それじゃ、と言ってカイトは書店から出て行った。その背中を見送りながら、宗助はまだ見ぬその書店に想いを馳せる。しかし、考えても選ばれた人しか行くことのできない本屋さんでは、自分にはどうしようもない。
「あのぅ。何かお探しですか」
ぼーっと立ち尽くす宗助に、そう声が聞こえてきた。宗助は、はっと我に返る。声をかけてきたのは女性店員だった。肩くらいまで伸ばした黒い髪に、たくさんの髪飾りをつけている。
「あ、いえ。何も……」
そう言った宗助の顔をその人は、長いこと眺め、そして言った。
「あ、よければそこの栞、ご自由にお持ち帰りくださいー」
女性店員が笑顔で指し示した場所には、何種類もの栞が差し込まれていた。どの栞にも、一冊は本のイラストが描いてある。
(ドリルには、栞なんていらないけど……)
そう思いながらも、女性店員がにこにこと見つめているので、宗助はそのうちの一つを手に取り、その場をはなれた。
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