3人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
どんどん、レジが近づいてくる。欲しくもない本を買うのは、とても気が重かった。少しでも時間稼ぎをしようと思い、立ち止まる。
そして、ドリルの表紙をめくった。そして問題ページを開いてみてびっくりする。なんと、白紙だったのだ。
おかしいな、と思って宗助は次のページを開いてみる。白紙だった。あれ、さっきお母さんに見せられた時には、ちゃんと問題が書いてあったはずなのに。
宗助が首をかしげていると、白紙の本に、一行の言葉が横書きで現れた。
『あなたにぴったりの本になってみせましょう』
宗助は、ぎょっとした。白紙の本から、ボールペンのインクが漏れ出たように文字が浮かび上がったのだ。誰だろうと、おどろくだろう。
『あなたがほしい本に、なりましょう。必要なら、栞に触れてみてください』
宗助がその文章を読み終わるのとほぼ同時に、何かが落ちた。拾い上げるとそれは、さっきもらった栞だった。けれどもさっきとは、様子が違っている。
「……なんだ……これ……っ」
栞に大きく書かれたページを開いた本のイラスト。それが今、まぶしく光っていたのだ。裏面を見て、さらにおどろいた。
裏は、何も描かれていなかったはずだった。しかし、今は違う。そこには、たくさんの本棚と、その中に本がぎっしり詰まっている絵になっている。
こんな物語の登場人物みたいな冒険をすることになるなんて。そう思いながら宗助は、ごくりとつばを飲み込んだ。そして、大きく息を吸い込んで、光っている栞に、勢いよく触れた。
気付くと宗助は、穴の中をゆっくりと落ちていた。不思議と、怖くはなかった。壁には、たくさんの本棚があり、宗助の落ちる空間の周りにもたくさんの本が飛び交っている。どの物語も、宗助に読んでほしそうに漂い、本棚へと戻る。
しばらくすると、宗助は、地面に着地した。そこを中心として、まあるい空間が広がっていた。そこは見渡す限り本で埋め尽くされていた。どの本棚にも満員電車のようにたくさんの本が収まっている。
「ようこそ、まぼろし書房へ」
最初のコメントを投稿しよう!