物語と勉強ドリル

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 どんどん、レジが近づいてくる。欲しくもない本を買うのは、とても気が重かった。少しでも時間稼ぎをしようと思い、立ち止まる。  そして、ドリルの表紙をめくった。そして問題ページを開いてみてびっくりする。なんと、白紙だったのだ。  おかしいな、と思って宗助は次のページを開いてみる。白紙だった。あれ、さっきお母さんに見せられた時には、ちゃんと問題が書いてあったはずなのに。  宗助が首をかしげていると、白紙の本に、一行の言葉が横書きで現れた。 『あなたにぴったりの本になってみせましょう』  宗助は、ぎょっとした。白紙の本から、ボールペンのインクが漏れ出たように文字が浮かび上がったのだ。誰だろうと、おどろくだろう。 『あなたがほしい本に、なりましょう。必要なら、栞に触れてみてください』  宗助がその文章を読み終わるのとほぼ同時に、何かが落ちた。拾い上げるとそれは、さっきもらった栞だった。けれどもさっきとは、様子が違っている。 「……なんだ……これ……っ」  栞に大きく書かれたページを開いた本のイラスト。それが今、まぶしく光っていたのだ。裏面を見て、さらにおどろいた。  裏は、何も描かれていなかったはずだった。しかし、今は違う。そこには、たくさんの本棚と、その中に本がぎっしり詰まっている絵になっている。  こんな物語の登場人物みたいな冒険をすることになるなんて。そう思いながら宗助は、ごくりとつばを飲み込んだ。そして、大きく息を吸い込んで、光っている栞に、勢いよく触れた。  気付くと宗助は、穴の中をゆっくりと落ちていた。不思議と、怖くはなかった。壁には、たくさんの本棚があり、宗助の落ちる空間の周りにもたくさんの本が飛び交っている。どの物語も、宗助に読んでほしそうに漂い、本棚へと戻る。  しばらくすると、宗助は、地面に着地した。そこを中心として、まあるい空間が広がっていた。そこは見渡す限り本で埋め尽くされていた。どの本棚にも満員電車のようにたくさんの本が収まっている。 「ようこそ、まぼろし書房へ」
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